木村伊夜は私の正妻

工藤朔空はドアを押し開けた。

彼はドア脇の壁に寄りかかり、長い脚を前に伸ばし、片方を少し曲げて、だらしなくも自由奔放な様子を見せていた。しかし、投げかけた色っぽい視線のせいで、少し違和感が生じていた。

「司星ちゃん、今日は私のこと少しは多く愛してくれた?」

「消えろ」宵月司星は瞼を持ち上げる労力すら惜しんだ。

彼は薄い唇を軽く開き、冷ややかな口調で、朔空の面子を少しも立てなかった。

朔空はかなり退屈そうに口を尖らせ、両手を自然にポケットに滑り込ませ、姿勢を正した。「そんなに急いでるってことは、もしかして奥さんに何かあったのか?」

「彼女は大奥さんだ」司星は彼に横目を送り、付け加えた。「それに、小奥さんなんていない」

朔空も含めて。

こいつが彼の小奥さんになりたいと思っても、それは絶対にあり得ない。

「ふーん」朔空は口を尖らせた。

司星を口説くN回目の挑戦は失敗。次回また挑戦だ!

「用がないなら、どけ」司星は顔を上げ、少し冷たい目で朔空を見た。

彼が邪魔をして、家に帰って奥さんに会うのが遅れる!

「用がある」朔空は真っ直ぐにコンピューターの前に歩み寄り、細長い指でキーボードをカタカタと打ち始めた。

彼は素早く文書を開き、画面をトントンと叩いた。「M国支社ビルの土地入札案件だ」

帝晟グループはM国へのビジネス展開を計画していた。

そのため、司星にとって今年最も重要なのはこの入札案件であり、それが彼の相続権を直接左右することになる。

「明日見る」

司星は首を傾げ、無関心に彼を一瞥してから、背を向けて安定した足取りでオフィスを後にした。

朔空は「……」

くそ、この入札案件が重要だと言ったのは彼自身なのに。

やはり男の言うことは信用できない……

数日前まで口では仕事を優先すると言いながら、実際には正直な体が愛人のもとへ走っている。

「わぁ、一体どんな小悪魔が私から司星ちゃんを奪ってるんだ!」朔空は無視された入札案件を見つめ、不満げに言った。

仕事でさえもこの男の心を繋ぎとめられなくなったなんて。

……

薔薇園。

司星が戻ってきたとき、彼は足に風を纏ったかのように、入るなり矢のように階段を駆け上がり、木村伊夜の部屋に飛び込んだ。