「この機会に木村伊夜と勝負しよう!」

「杉本裕子、私に対して何か悪だくみをしないほうがいいわよ!私には目があるの、口パクなんてすぐにわかるんだから!」

川崎凛香は腰に手を当て、鼻を高くして傲慢な態度を取った。

口パクの場合、それぞれが曲の解釈が異なるため、発音や息継ぎにも違いが出る。だからこそ、簡単に見破ることができるのだ。

裕子はちっと舌打ちし、少し心虚になって視線を別の方向に逸らし、どうして彼女がすぐに見抜いたのか考えていた。

「でも美晴ちゃん、あなたの歌、本当に素敵だったわ」

そのとき、ブラックボックスのドアが開き、北村美晴が暗闇から傲然と歩み出てきた。彼女の後ろには一人の女の子がついてきて、ぺこぺこと取り入っていた。

美晴も自分に自信があるようで、「歌うことは声・台・形・表の一部よ。単なる職業的素養ね」と言った。

声楽科の先輩は少し顔を曇らせた。

しかし、彼女は敵対関係を作りたくなかった。たとえ学内では先輩であっても、芸能界の先輩である美晴と衝突するわけにはいかなかった。そのため、彼女は無理に笑うしかなかった。

「確かにそうですね。美晴ちゃんの歌は感情も豊かで、演技においても声は重要ですからね」

先輩は渋々と、お世辞を続け、かなり作り笑いをした。

美晴はうなずいただけで、それ以上相手にせず、凛香の方へ歩いていった。そして、木村伊夜に気づいた。「あなたもここにいるの?」

彼女は目を伏せ、ちらりと見て、胸に参加者番号がないことを確認した。

視線を少し移すと、伊夜の隣に立っている裕子の胸には番号が付いているのが見えた。

「美晴、今夜星元KTVに行かない?伊夜が私と歌勝負をするって言ってるの。負けたら罰として酒を飲むんだって!」

凛香は美晴が出てくるのを見ると、すぐに彼女の腕に取り入るように抱きついた。「そういえば、予選はすごく順調だったでしょ?」

「うん、通過したわ」美晴はうなずいた。

彼女は少し不思議そうに伊夜を見つめ、彼女がそう簡単に勝負を受け入れるタイプではないと感じていた。そのため、「KTVについては、興味ないわ」と言った。

凛香と伊夜の勝負なんて、さらに興味がなかった。

結局のところ、美晴は伊夜の失敗を見たいわけではなく、あらゆる面で堂々と彼女に勝ちたいと思っていたのだ!