木村伊夜、一曲勝負しよう

星元KTV。

木村伊夜は白いシャツと空色のデニムスカートを着て、すっぴんで清純な装いをし、安城最大のカラオケ娯楽施設にやってきた。

「星夏、VIP108号室で待ってるよ!」

伊夜は目を伏せて杉本裕子からのメッセージを確認すると、スマホをしまい、会員エリアへと向かった。

しかし彼女が部屋の入り口に着いて、ドアを開けようとした瞬間、入り口で見張っていたバーテンダーに手で遮られた。

「君は誰だ?」バーテンダーは強い態度で言った。「ここの個室は、貧乏学生が勝手に入れる場所じゃないんだぞ!」

彼は伊夜を軽蔑的に見回した。

こんな格好をして、年齢も若そうだ。きっと金持ちに近づくか、愛人になろうとしているんだろう……

だが彼女は知らないだろう、この部屋の主は女性で、しかも有名な子役の北村美晴だということを!

「私は北村美晴のクラスメイトです」

伊夜は少し苛立ちながら眉をひそめ、顔を上げてバーテンダーを見つめ、少し威圧的な口調で言った。「どいてください」

今どき、こんなに世知辛い人ばかりなの?

もっと彼女を怒らせたら、安城夜帝の名前を出して驚かせてやるわよ!

「皇家芸術学院の?」バーテンダーは半信半疑で彼女を見て、態度を少し和らげた。「学生証を見せてくれ」

芸能界のストーカーファンは、何でも手段を選ばないからな。

北村美晴の知り合いを装って彼女に会おうとするファンも、バーテンダーは多く見てきた。

「カチャッ——」

そのとき、部屋のドアが突然開いた。

裕子は一人で中にいるのが退屈だったので、ちょっと外の空気を吸いに出てきたところ、偶然伊夜に出会った。

「あっ、星夏!やっと来たね!」

彼女はすぐに駆け寄り、大きな熊のハグをした。

それを見て、バーテンダーの表情は一瞬で凍りついた。「申し訳ありません、杉本さん。彼女があなたの友達だとは知りませんでした……」

裕子は驚いて、目をパチクリさせた。

伊夜から離れると、彼女は困惑した様子でバーテンダーを見た。「星夏、彼が入れてくれなかったの?」

伊夜は何も言わなかった。

裕子はすぐに毛を逆立てた。「よく見なさいよ、これは私の友達!星元のVIPゲストよ!」

「はいはいはい」バーテンダーは何度もうなずいた。