「宵月司星に言わないでください」

菅原健司は木村伊夜を一瞥し、冷たく澄んだ瞳がわずかに深くなった。彼はその後、看護師に軽く頷いた。

看護師はすぐに彼の意図を理解し、身を翻して立ち去った。

「入りなさい」健司は振り返り、率先して診察室に入った。

伊夜は彼に続き、自然と彼のデスクの向かい側に座った。表情は落ち着いており、余計な感情を見せないようにしていた。

「知っていたの?」彼女は健司を見つめ、桜色の唇を軽く噛んだ。

その言葉を聞き、健司の眉と目がわずかに動いた。彼は十本の指を組み合わせてデスクの上に置き、端正な顔に少し探るような表情を浮かべた。

「つまり、木村さんは私に打ち明けに来たということですか?」

伊夜は何も言わなかった。

彼女は健司がどこまで知っているのか分からなかったが、彼女の推測では、おそらく知るべきことはすべて知っているのだろう。

あの日の歯茎からの出血は、彼を騙せなかったようだ。

「話してください。大動脈洞動脈瘤ですね?」健司は落ち着いて伊夜を見つめ、彼女を追い詰めるつもりはないようだった。

彼はいつも患者を尊重していた。

しかも、この患者は彼の義理の妹のような存在だった。

伊夜は少し驚いた。彼が具体的な病名まで調べていたとは思わなかった。「...はい」

「発症時期は?」

「分かりません。成人式の時に見つかりました」

健司は少し黙った。彼は伊夜の年齢を計算し、おそらく1年ほど前だろうと思った。

彼は眉を少し上げた。「私を訪ねてきた目的は?」

もし伊夜が身体検査をしたいのであれば、彼の外科の診察室ではなく、直接心臓血管内科の黒田を訪ねるはずだった。

伊夜はためらいがあった。

彼女は目を伏せ、長い間考えた後、ついに口を開いた。「お願いです...宵月司星には言わないでください」

その言葉を聞いて、健司は少しも驚かなかった。

あの日、薔薇園で伊夜があのような方法で彼が病状を口にするのを阻止したとき、彼は既に彼女が隠そうとしていることを確信していた。

ただ、彼は驚いていた。伊夜がこのことのために、わざわざ病院まで彼を訪ねてきて、しかも頼み事をするような姿勢でいることに。

実際、司星に知らせることは、彼女にとって何の不利益もないはずだった。

「理由は?」健司は眉を軽くしかめた。