木村伊夜は両手を背中に回した。
彼女はこっそりと自分のスカートの裾をつまみ、まるで悪いことをした少女のように、「本当に大丈夫だよ……病院に行かなくてもいい?」
彼女は正体がバレることを心配し、吉田龍一に連れ去られることも恐れていた。
「ダメだ」宵月司星は薄い唇を開き、再び彼女の手を取った。「僕が付き添うから、全身検査をしよう、いいね?」
全身検査……
伊夜は桜色の唇を軽く噛んだ。「あ……」
彼女の心臓病はすでに悪化し始めていた。今の心電図や心音は、おそらく異常を示すだろう。
「急に眠くなった」伊夜はあくびをして、そのまま司星の体に全身を預けた。「坊や、ママ眠いの!先に家に帰って寝ようよ?」
杉山由夏は「……」
彼女は唇の端を軽く引きつらせ、見ていられない気分になった。
この世に宵月司星を手なずけられる生き物がいるとは、本当に珍しいことだ。もし他の誰かがこんなことを言ったら、きっとすでに舌を引き抜かれているだろう。
「車の中で少し寝ていればいい。小林が運転するから」司星は腕を伸ばして伊夜を抱き寄せた。
少女は彼の腕の中で丸くなり、柔らかくふわふわしていた。
彼女は頭を振りながら、彼の胸に顔をすり寄せ、甘えるように言った。「イヤイヤイヤ、私はお家に帰ってお眠りしたいの!」
病院に行くなんてあり得ない!この先もずっとあり得ない!
彼女は苦労して、やっとここまで司星に隠し通してきたのに、どうして簡単に水の泡にできるだろうか?
司星は少女の甘えにお手上げ状態になり、「どうしてそんなに病院が怖いの?」
彼女が診察を避けるのは、これが初めてではなかった。
前回、菅原健司に家に来て診察させようとした時も、この小悪魔は姿を消し、薔薇園から逃げ出した。
「消毒液の匂いが嫌だし、ウイルスも多いから、病気じゃなくても感染しちゃう、良くないよ良くない」伊夜は手を振った。
これを聞いて、司星はかなり困惑した。
しかし健康は冗談ではなく、彼はまだ安心できず、伊夜の言いなりになるわけにもいかなかった。「健司に来てもらおう」
薔薇園での検査でも同じだ。
伊夜は「……」
まさに魔高一尺、道高一丈だ!
でも健司は少なくとも病院よりだまし易い。結局、彼は秘密を守ると約束してくれたのだから、まだ余地があるかもしれない。