交換留学生の**アイリス(Iris)**は、自分でも気づかぬまま、命を救った――。
あの日、**デイヴィッド(David)**は絶望の淵に立っていた。
地上十数メートルの手すりの上に立ち、ぼんやりと下を見下ろす――強い風が吹いていたが、彼には意識がなかった。
そのとき、隣に人影が現れ、手すりの上に足をかけた。
はっとして振り向くと、そこには少女がいた。
口を開く前に、少女の第一声が飛び出した。
「Oh man, you’re tall!」
「……え?」
「I wish you could give me some you tall!」
「……え?」
少女は木々の向こうに見える夕陽を見つめながら独り言のように続けた。
「I play basketball, you know? I’m talented, but too short… blah blah blah… So I really wanna be taller.」
デイヴィッドは思わず笑い、訊いた。
「どれくらいインチ、欲しいの?」
「Oh… I forget the damn inch thing. Sad…」
そのとき、公園の警備員が現れ、何をしている、と厳しく問いただす。
アイリスはきょとんと瞬きして心の中でこう思った――
「これが、アメリカ人の眺め方ってやつ…?」
その後、デイヴィッドは彼女にハンバーガーをご馳走し、そうして二人は出会った。
だが、デイヴィッドは知らない――
「絶望の中で自分を救った“小さな天使”」が、いつの日か自分を地獄へ突き落とすことを。
1年後 — 高校時代
女バスケットボール部のキャプテン、アイリス。
一方、男子部のキャプテンは**マイルズ(Miles)**だった。
ある日、観衆の前で一対一の対決をした。アイリスは技術・センスともに勝るが、マイルズは頭一つ体格が大きく、優位は明らか。
それでも試合は1対1の引き分けに終わる。アイリスが放った同点シュートが決まった瞬間、男子陣営からブーイングが飛び、マイルズは怒りを爆発させた。アイリスの頭上を飛び越え、一撃でダンクを決めた。
試合後、子供のように感情が交錯する二人はアイリスの家で飲み物を飲みながら語り合う。
アイリスは不満げに言った。
「20センチくれたら、絶対にあなたを倒せるのに!」
マイルズは含み笑いで答える。
「オーケー、20センチやるよ。それでも倒せるかな?」
翌朝
アイリスは目覚めて、どうも様子がおかしいことに気づいた。
ベッドを降りた瞬間――頭が天井の照明にぶつかった。
――身長が伸びていた。
しかも、ぴったり20センチ。
鏡の前で茫然とする彼女のそばで、携帯が震える。
病院では、コーチや部員たちの顔が暗かった。
震えながらマイルズの病室へ入ると――
ベッドには彼が横たわっていたが、両脚はガーゼに包まれ、足の裏が消えていた。
アイリスが呆然と立っていると、突然彼に手首を掴まれた。
「お前だろ!20センチくれって言ったのは……奪ったんだろ!俺の足を!」
大騒ぎとなる中で、仲間や看護師が止めに入った。
その夜、アイリスは親友Yにそっと訊ねる。
「あたし、本当に……20センチ奪ったの?だって、前は160センチしかなかったんだよ…?」
Yはしばし黙り込んだ後、彼女を軽く抱きしめた。
「二人は幼なじみだし、これはあなたのせいじゃないよ。彼が今、精神的に不安定なだけなんだ。」
2年後
アルバイト先のレストランで、アイリスは非常に寛大な中年男性と出会った。
雑談の中、彼女は冗談半分に言った。
「あなたって億万長者なんですって?だったらチップに10万ポンドちょうだい~って。」
男性はニコリと笑った。
「もちろんだよ。君の魅力へのご褒美だからね。」
しかし彼が残したのは、7ポンドの食事に対し10ポンドのチップだった。
翌日、彼女の携帯に銀行からの通知が届く。
”£100,000 が振り込まれました。残高:£100,020”
5年後
アイリスはWNBAのスター選手に、
デイヴィッドはグラミー賞を受賞したアーティストに――
二人は華やかな式の中で結婚した。
しかし妊娠後、アイリスは深刻な体調不良に悩まされ、コートに戻ることができなくなる。
双子の母、音楽アワード受賞者の妻――だが、彼女が本当にいちばん愛していたのは、
あの、全身で汗を流したバスケコートの自分だった。
感情が爆発したとき、デイヴィッドはいつも姿を消した。
彼女が望んだのは、ただ――抱きしめてくれることだけだった。
ある日、大喧嘩の最中、彼女は叫んだ。
「もう、あなたのこと好きじゃない!」
言い終えたその瞬間――
本当に彼への感情がなくなったことに気づいた。
二人は別れ、デイヴィッドは子どもたちを連れていった。
数年後
年月を隔てても、再会すれば衝突が起きる。
ある日、アイリスはついに怒りの言葉を放つ。
「Go to hell!」
その瞬間……
デイヴィッドが音もなく消えた。
誰も彼の姿を二度と見なかった。
アイリスは夫殺しの容疑をかけられ、警察の調査対象となった。
彼女は言葉を失い、家の中でうわごとのように呟く。
「Back… David… back to earth…」
中学生だった双子の子どもたちは、母が壊れていくと信じた。
そして――嵐の夜。
アイリスは天に向かって叫んだ。
「デイヴィッド、愛してる…!!」
すると、部屋の中央に、たくさんの骸骨が浮かび上がった。
彼女はその場で逮捕され、
不審死の連続事件の容疑で有罪判決を受けた。
後日談
ある人は言う――
彼女は誰も傷つけていない、と。
またある人は言う――
彼女が奪ったものは、
人々が「あげる」と約束したものにすぎない、と。
けれど否定できないのは――
アイリスには“呪い”が宿っていたという事実。
彼女は盗まなかった、強奪しなかった。
だが――
もし、あなたが彼女に「くれる」と言ったら……
彼女は必ずそれを奪ってしまう。
――20センチの身長も、10万ポンドも、
愛も、魂も……
そして、
人がこの世界に“存在する”という権利すら、
彼女は“奪ってしまう”のだ。