第0章 プロローグ

十代くらいの少女が、淡い水色のクリスタルをあしらった白のゴシックドレスを身にまとい、白いソックスをはいた足には同じくクリスタル製の靴を履き、ベッドに腰かけながら窓の外を見つめていた。その少女はまるでお姫様のように美しい容姿をしており、淡い水色の瞳に水色の眉、そして長い水色の髪。雪のように白い肌は清らかさを醸し出していた。

しかし、その美しさとは裏腹に、少女は水晶製の短剣を手にし、それを弄んでいる。愛らしい「少女」が敵意などない様子で刃物を手にしているのは、不自然で不気味でもあった。

その少女の名はミレラ。遠い銀河の惑星「ヴィルゴ」にあるヴィルラ王国の一人娘だった。そこでは王族も平民も差別なく、誰もが満たされた暮らしを送っている。彼女の父と母、そして姫の家族は、正義と平和を愛する統治者であり、故にヴィルラ王国は民にも他国にも慕われていた。

やがて、ミレラは短剣を握りしめながら小さく微笑み、鏡か窓の面に映る自分の顔を見つめていたところ、誰かが部屋の扉を開ける音が聞こえた。

「…ミレラ王女様」

「むっ…誰だ?」ミレラは呼ばれた名前に反応し、素早く後ろの扉へ顔を向けた。

ひらりと開いた扉の隙間から、ショートブロンドの髪をしたメイドが現れた。黒と白の服を身につけた彼女は、温かな微笑みとともにミレラを見つめていた。ヴィルラ王国の宮廷に仕える女中の一人である。

「アストラ様…ご用でしょうか?」

「申し訳ございません、ミレラ王女様。女王様がお呼びになって、客間までお越しくださいと仰せです」アストラは軽く頭を下げて応える。

「わかった、ありがとう」

(ヴィルラ王国の客間にて)

「ふふふ…思ったより簡単だったわね」

銀色の長髪をなびかせた女性が客間の椅子に腰かけ、淡い水色のドレスとクリスタルのティアラをまとった女性と話している。

そのティアラの女王は、ヴィルラの女王として19年の治世を重ね、現在は二人の王女の母でもあった。

女王は花束をテーブルに置きながら、傍らに座る銀髪の女性に語りかけた。

「言ったでしょう? 焦らず花を活けること。花の種類ごとの意味もよく学びなさい、と」

「では…もっとお花について教えていただけますか?」

銀髪のメイドは期待に目を輝かせながら、神妙に礼を述べる。

「ええ…時間が許す限り喜んで」女王は穏やかに笑った。

メイドは深く頭を下げ、嬉しそうに感謝を述べた。

「ありがとうございます! どうぞご指導を!」

「お母さま! お母さま!」

突然、少女の声が響いた。呼びかけられたのはまさに女王だった。女王はソファから立ち上がり、その声がした方へ向き直る。声の主――ミレラ王女がそこにいた。

「ついにわが愛しい娘が来たわね」

淡い水色の長髪を揺らし、白のゴシックドレスに青の宝石を飾ったミレラが駆け寄ってきて、女王にぎゅっと抱きついた。

ミレラは母を見上げて甘く微笑む。

「ミレラ…母さまから贈り物があるの」

「え? 何かな?」

ミレラは好奇心に満ちた瞳で母を見つめた。女王はテーブルの上にあった花束を手にとり、優しく母が向けられた。

「わあ、花束…母さまが作られたの?」

ミレラは大喜びで母の手からそれを受け取った。

その花束には白と青のバラがあしらわれていた。母娘ともにその色の組み合わせを好んでおり、白いバラは純潔と誠実な心を、青い花は「まだ成し遂げられないが、努力し続ける意志」を象徴していた。伝説ファンタジーでは、青い花は「遠く、しかし美しい真実の愛」を例えるとされ、この白と青の組み合わせはこう表現される。

「清らかで平和な愛。しかし簡単には得られず、それでも希望のようにひっそりと咲く」

女王は優しくミレラの頭を撫で、彼女の満面の笑顔を見つめていた。

「ただ、本物の花じゃないの、ごめんなさいね。長く持たないから」

ミレラは花が布でできていると聞いても、母の手作りならそれで十分だった。

「布製の花束でも、母さまが作ってくれたものは、本物に見えるよ」

ミレラは嬉しそうに頭にそれを飾りつけた。花のクリスタルが、まるで王女を迎え入れるかのように輝いた。

「ほんとにお似合いね、お姫さま。お庭で着ければ、なお美しいでしょうね」

アストリアルという名の銀髪の女中が微笑む。彼女は宮廷の画家でもあり、ミレラを次の絵の題材にしようと想像を巡らせていた。

「そうね、春の庭で、花尽くしのドレスにその花冠。この春にぴったりの絵になるわ」女王も興味深そうに応じた。

ふと、ミレラは母の左手首に巻かれた淡い水色の四角い腕時計に視線を止めた。初めて間近に見るそのアクセサリーに、彼女は強い好奇心を覚えた。

「母さま…その時計は何のために?」

「王室の公式行事の時だけじゃなかったの?」

ミレラはずっと気になっていた声を、今、尋ねた。

女王は微笑み、少し小さく笑った。その問いを心待ちにしていたかのようだった。

「この時計はね…」

女王はミレラに近付き、語りかける。

「ただの時計ではないの。これは私たちの祖先が受け継いできた、たいせつな遺産なのよ」

「昔、祖先はこの時計を使って銀河中に正義と平和を広めたの」

女王はその時計がヴィルラ王家最大の遺産であり、水晶の力をも凌ぐ強大な力を持つと語る。

「この時計にはまだ多くの謎が秘められているの。私も全銀河の書物や歴史家から調べているところなのよ…」

短く語った後、女王はミレラの両手をしっかりと握り、真剣な表情で遺言を伝えた。

「私の娘ミレラ…あなたが大人になったそのとき、この時計をあなたに託すわ。あなたは次の王となると決まったの」

その言葉と同時に、時計はミレラの肌に触れると淡く光を放ち、まるで次の継承者を認めるように輝きを放った。

「ほら見て、ミレラ…このアーティファクトは、所有者を自身で選んだのよ」