チャプター1:走れ

子犬はコナーに向かって吠えた。眉を上げたコナーは、子犬の首の後ろをつかんで持ち上げた。すると子犬は本能的におとなしくなった。

「女の子か」彼は気づいた。「だから捨てられたのかもな」

彼は子犬をコートの中に入れ、温めてやった。「まず母さんに見せて、飼っていいか聞いてみよう」と決めて、帰路についた。突然の揺れに子犬はしばらく鳴いていたが、やがて落ち着き、コートの中で眠りについた。

日が沈みかける頃、ようやくキャンプの火が見え、人々の声が聞こえてきた。

『もう宴が始まってるのかも…』コナーは遅れたのではと焦り、歩みを速めた。

だが、騒音で目を覚ました子犬は、まるで様子が違った。人間たちの苦しげな叫び声に反応して吠えたかと思うと、コートから飛び出し、広場に向かって走って行った。

その様子に気づいたコナーも後を追った。木々をかき分けて、ついにキャンプにたどり着いたとき、そこにあったのは焚き火ではなく、焼き払われる村だった。見知らぬ服を着た人間たちが、仲間を引きずり、殺しながら訳のわからぬ言葉を叫び合っていた。

ほとんどの者が撤退しており、広場には屍の山が残され、火に包まれていた。青髪の少年は自分の家に向かって走り、家族が無事であるよう祈った。だが彼が目にしたのは、見知らぬ男が彼の母の上で何かを呟きながら押し倒している光景だった。

「母さん!!!」コナーは叫び、槍を男の喉に突き刺した。男は横に崩れ落ち、その下から現れたのは、彼がこれまでに見た中で最も残酷な光景だった。母は血と泥とその他のもので衣服が汚れ、腹には母が大切にしていた赤い石のついた短剣の柄が刺さっていた。

コナーはすぐに膝をつき、母を抱き上げた。

「母さん!母さん!!」

弱々しく、母は彼を見た。そして震える手を差し出し、彼はその手を握った。

「…と…とら…れ…」母が呟いた。

「何を!?何があったの!?」

「マ、マ…マエ…ッ!」母は咳き込み、血を吐いた。

少年はその意味を理解し、胃の中がひっくり返るような感覚に襲われた。涙をこらえて呑み込み、『今は泣くときじゃない!』と震えながら思った。

「大丈夫だよ母さん!マエラを…マエラを取り戻すよ!だからお願いだ…」

「お願いだから…生きてて…」彼は目を閉じながら懇願した。すると頬に優しい手が触れた。

「…いき…て……」母がかすれた声で囁いた。

コナーは目を開き、穏やかで愛おしい笑みを浮かべる母を見た。彼は強くうなずいて手を握り返した。

「うん…生きるよ、母さん。絶対に…」

母は満足そうに目を閉じ、そのまま動かなくなった。

何かを言おうとしたが、口からは声が出なかった。彼の手から、母の手がするりと落ちた。

我慢していた涙がついにあふれ出し、まだ大人にもなっていない少年は、世界が崩れゆく中で母の冷たくなった身体を抱きしめ、泣き叫んだ。

その夜、一人の少年が、一日ですべてを失った悲しみを抱いて嘆いた。彼はまだ知らなかったが、その時、森全体が彼と共に嘆いていた。

その夜、彼は変わった。でも、それはまた別の物語。