第10章 異界のエックスメン

佐藤悠斗が逃げ出す算段を頭で巡らせている間、城壁の上では戦闘がまだドタバタ続いていた。

一人の兵士が、疾風の獣の爪に頭をかち割られそうになったその瞬間――

「ガキン!」

鋭い金属音が響き、火花がバチバチと散った。長剣が目の前に飛び出し、獣の爪をガッチリ受け止めたのだ。剣は弧を描いて振り下ろされ、疾風の獣はサッと跳び退いて、剣を振った相手を警戒するように睨んだ。

死線をくぐり抜けた兵士は、息を荒げながら目の前の背中を見上げた。ゴツい鎧に包まれた、でっかい図体。

「隊長!」

兵士の声に、尊敬と感謝が滲んでいた。

隊長は顔を上げ、鷹のような鋭い目で疾風の獣を睨んだ。厳つい顔に、威圧感がビシビシ漂ってる。長剣を握る手は力強く、まるでそこにいるだけで場を落ち着かせるような存在感だ。

隊長はチラッと倒れた兵士たちに目をやり、口の端をクイッと上げた。ちょっと呆れたような、でも厳しい声で言った。「お前ら、訓練が足りねえな」

言うや否や、隊長がドンッと踏み出し、疾風の獣に突っ込んだ。動きはまるで豹! 剣光が空を切り裂き、獣に迫る。疾風の獣も負けじと爪を振り、ガキン!と剣と爪がぶつかり合い、甲高い音が城壁に響いた。

隊長の剣は氷みたいに冷たく光り、正確で力強い一撃を繰り出し続ける。だが、疾風の獣はスルスルと身をひねり、軽快に攻撃を躱していく。城壁がビリビリ震えるような激しい戦闘だ。

逃げようと思ってた悠斗は、隊長が一気に形勢を逆転させたのを見て、目がキラッと光った。「お、すげえ! こりゃ見るしかねえ!」と、逃げるのをやめて戦闘をガン見した。

戦いはまだ続く。隊長の剣が疾風の獣の黒い鱗甲をガリガリと削り、火花がバチバチ飛び散る。

ついに、隊長の渾身の一撃が炸裂! 剣が獣の身体に深く食い込み、血がバシャッと城壁に飛び散った。

疾風の獣は「キシャァッ!」と怒りの咆哮を上げる。隊長を中心にクルクル跳び回り、隙を狙ってチクチク攻撃してくる。明らかに本気モードだ。さっきよりスピードがグンと上がってる!

隊長は獣の動きをガン見し、素早い影を捉えようとする。最初は抜群の技とパワーで攻撃を全部弾き返してたけど、戦いが長引くにつれ、ちょっとずつ息が上がってきた。疾風の獣の動きが速すぎる。剣が空を切るたび、シュッ!と風の音が響くが、獣はスッと躱す。

そして、一瞬の隙――疾風の獣がクルッと旋回し、爪が隊長の鎧をガリッと切り裂いた。肩に深い傷が走り、隊長が「グッ!」と唸る。動きが一瞬鈍った。

その隙を逃さず、獣の尾がビュン!と隊長の剣に絡みつき、グイッと引っ張って剣を弾き飛ばした。剣がガラン!と城壁に転がる。

悠斗は顔を青ざめた。「マジかよ、ヤバいぞ…!」

だが、隊長は武器を失っても動じなかった。冷たく獣を睨み、まるで余裕たっぷりな目だ。

疾風の獣が嵐のような攻撃を仕掛けてくる。隊長は両手で爪を弾き、ドン!と獣を押し返す。表情は終始冷静で、目に自信がギラギラ光ってる。

隊長は獣の一撃を弾き、すかさず足を振り上げ、ドゴッ!と獣を蹴り飛ばした。獣はゴロッと転がり、低く唸って再び襲いかかる準備をする。

隊長が右手を上げ、口の端でニヤリと笑った。「爪があるのは、お前だけじゃねえぞ」

その瞬間、右手がググッと変形し始めた。指の爪が鋭く伸び、手がゴツい鱗に覆われ、まるで獣の爪みたいなパワフルな形に変わった。

悠斗は目を剥いた。「うおっ! マジか!? エックスメン!?」

心の中で叫んだそのツッコミが、つい口からポロッと漏れた。

隣の雷太がキョトンとして聞き返した。「エックス…メン? なんだそれ?」

悠斗は「いや、なんでもねえ!」と誤魔化し、目を隊長に釘付けにした。

「遊びは終わりだ!」

隊長が吠え、一気に疾風の獣に突っ込んだ。変形した獣爪を振り回し、城壁にガリガリと鋭い痕を刻む。疾風の獣は慌てて跳び回り、必死に躱す。

獣はついにビビったのか、クルッと向きを変えて城壁から跳び降りようとした。だが、隊長はそれを逃さない。獣のスピードにピッタリ追いつき、獣爪をブン!と振り下ろす。

「グシャッ!」

爪が獣の背中に突き刺さり、身体をズブリと貫いた。

隊長は腕を高く掲げ、疾風の獣をぶら下げた。獣はビクビクと身をよじり、苦しげに唸る。隊長は冷たく獲物を見下ろし、爪から血がポタポタと城壁に滴る。

疾風の獣の悲鳴がだんだん弱まり、ついに頭をガクリと下げ、動かなくなった。