第9章 疾風獣の再臨

佐藤悠斗は高橋雷太をチラッと見て、霊光の晶核についてどう切り出そうか頭をひねった。ゴホンと咳払いし、恐る恐る口を開く。「あの、雷太さん、この霊光の晶核って…」

だが、言葉を続ける前に、突然――

「ガァァン!」

警鐘が夜空を切り裂き、城壁の兵士たちが一斉に城外に目をやった。

一人が目を細め、遠くを睨んで呟いた。「疾風の獣…また戻ってきたぞ」

悠斗は慌てて城壁の外を見た。闇の中に、黒い影がグングン近づいてくる。目を凝らすと、さっきの黒豹みたいな疾風の獣だ。あの時襲ってきたやつと同じかどうかは分からないけど、間違いなくヤバい気配がビンビン伝わってくる。

城壁の兵士たちは即座に戦闘モード。弓を手にし、弦をピンと張って、迫る黒影をガン見した。

疾風の獣のスピードはハンパなかった。瞬く間に射程圏内に飛び込んできた。

「撃て!」

兵士の叫びに、矢がシュシュッと一斉に放たれた。

だが、疾風の獣は速すぎる! 矢はそいつの周りをスッと掠めるだけ。黒い雷みたいな動きで、まるで矢をバカにするようにスルスルと躱していく。

兵士たちの顔が一気に硬くなった。さっきの紅のトカゲ相手の余裕なんて微塵もない。矢を放つ手がさらに速くなり、弦がビュンビュン鳴った。

疾風の獣はあっという間に城壁の下に到達。四本の脚でガッと地面を蹴り、鋭い爪が石の隙間にガリッと食い込む。垂直な壁を、まるで平地みたいにスイスイ登り始めた。

「くそっ!」

一人の兵士が吠え、弓をドンッと地面に投げ捨てた。腰の剣をスラリと抜き、松明の光で刃がキラリと冷たく光る。他の兵士も次々に弓を捨て、長剣に持ち替えた。

城壁の上は一気に緊張感が張り詰めた。皆の目が疾風の獣に釘付けで、心臓の音が聞こえてきそうな空気だ。

疾風の獣がバネみたいに城壁に飛び乗った。狡猾な青い目がギラッと光り、黒い鱗甲が松明の光を冷たく跳ね返す。流線型の身体は、まるで闇そのものが動いてるみたいだ。

「シャキン!」

四方から剣が斬りかかり、刃が空気を切り裂く。だが、疾風の獣は異常な速さでクルッと宙を舞い、すべての攻撃を軽々躱した。剣が空を切るたび、ガキン!と石壁にぶつかり、火花と石屑が飛び散る。

獣は一気に跳び、一人の兵士の背後に着地。前爪がガッと振り下ろされ、兵士は反応する間もなくドサッと倒れた。別の兵士が横から斬りかかるが、獣はサッと身を翻し、長い尾でビュン!と一撃。兵士は吹っ飛び、城壁に叩きつけられた。

二人が一瞬でやられ、血が石に滲む。残りの兵士たちの間に緊張がビリビリと走った。

剣光が乱れ、ギンギン!と剣が振られるたび、獣は幽霊みたいにスルスルと躱す。鋭い牙が闇でギラリと光り、爪が空気を切り裂くたび、兵士たちは近づくのもビビる。

城壁はもうカオスだ。剣光と獣の影が交錯し、兵士たちの額に汗が光る。恐怖と焦りが顔に張り付いてる。

雷太は白石と悠斗を引っ張り、城壁の端に避難させた。悠斗は戦闘のドタバタをガン見し、心臓がバクバク。疾風の獣の猛攻は止まらず、兵士たちはどんどん押されてる。こりゃ、マジでヤバい…!

ふと、袖をまくって小臂を見た。

【生き延びれば帰還可能 00:13:44】

あと十数分で現実世界に帰れるはずなのに…この状況、生き残れる気がしねえ!

絶望が胸を締め付けた。

でも、生き延びたい。いや、生き延びなきゃ!

悠斗の頭に一つの考えが浮かんだ――今すぐ逃げる! この戦場から離れて、なんとかこの十数分をやり過ごすんだ!