佐藤悠斗と高橋雷太は城壁の掃除を終え、再び頂上に登った。
数人の兵士が一匹の紅のトカゲの死体を囲んでしゃがみ込んでいた。悠斗は、それがさっき城壁に登ってきたやつだと気づいた。両目が槍で貫かれ、グチャッと潰れている。
一人の兵士が鋭いナイフを手に、トカゲの頭にサクッと突き刺した。動きは素早く、まるで何度もやったかのように慣れている。角質の硬い皮をスルスルと剥がしていく。
「何やってんだ?」
悠斗がポロッと聞くと、雷太が肩をすくめて答えた。「霊光の晶核、探してんだよ」
「霊光の晶核」――初めて聞く言葉に、悠斗は一瞬キョトンとした。さっぱり分からないけど、また「何それ?」って聞くと、雷太に「どこの田舎モンだよ」ってツッコまれそうで、口をつぐんだ。
じっと兵士の手元を見つめる。角質の皮が剥がれ、ゴツゴツした頭骨がむき出しになった。
その瞬間、別の兵士が「お!」と声を上げた。「晶核、あるぞ!」
悠斗は目を凝らした。頭骨のど真ん中に、小さな窪みがあって、そこに核桃みたいな透明な晶体がハマっている。表面はツルツルで、ほのかに光を放ち、光の角度でキラキラと色が変化する。
中には、まるで生きてるみたいにドロッとした液体がゆっくり流れ、微かに輝いていた。赤、青、緑――角度によって色が揺らめく、不思議な美しさだった。
悠斗は思わず近づいて、もっとよく見ようとした。だが、兵士の一人にドンと押され、「邪魔だ! なんだ、晶核見たことねえのか?」と笑いながらツッコまれた。
悠斗はよろけて、内心ブツブツ文句を言った。…見たことねえよ! でも、なんか…スマホの【異界】ってゲームのアイコンにそっくりだな…。
兵士たちは悠斗を無視し、別の兵士がピンセットで晶核をそっと取り出し、粗い布袋にポイッと放り込んだ。袋の口をキュッと結ぶ。
「この晶核、酒場で一晩豪遊できるぜ!」と、ニヤニヤしながら仲間を見た。
「もう一匹にも晶核あったら、二晩イケるな!」
別の兵士が笑いながら付け加え、皆でゲラゲラ笑った。さっそくもう一匹のトカゲの頭をガリガリと剥ぎ始めた。
悠斗は横でその様子を見ながら、雷太にチラッと聞いた。「あの…紅のトカゲって、みんな霊光の晶核持ってるわけじゃないんだ?」
雷太が悠斗の隣に立ち、気さくに答えた。「いや、紅のトカゲに限らず、荒獣全般だ。晶核はランダムで、だいたい5匹に1匹くらいしか持ってねえ。見つけるのは運次第ってわけ」
雷太が言い終わった瞬間、兵士たちがもう一匹の頭骨を剥き出しにした。窪みがハッキリ見える。
…が、晶核はなかった。空っぽだ。
「チッ」と兵士たちが小さく舌打ちしたが、別に落ち込んだ様子もない。さっきの盛り上がりがスッと静まっただけだ。
悠斗はそっと袖をまくり、小臂のカウントダウンを見た。
【生き延びれば帰還可能 00:15:27】
まだ時間はある。悠斗は頭をフル回転させ、どうやって自然に晶核のことを聞き出そうか考えた。だって、霊光の晶核って、めっちゃ気になる!
それに、思い出した。この異世界に来るキッカケになった【異界】ってゲームのアイコン――あれ、絶対この晶核そっくりだ。
第六の勘がビビッときた。こいつ、なんか絶対大事な鍵だろ! 絶対、使い道を突き止めなきゃ!