「長老」
西牛賀州の険しい山道で、哪吒は金蝉長老に言った。「私たちは丹薬を届けに出るべきではないと思います」
「南無阿弥陀仏」
金蝉長老は山頂に立ち、渓谷を見下ろした。「私にはある予感がある。この旅で必ず答えが得られるはずだ」
「仏祖様があなたに問われたその答えですか?」
哪吒は彼の後ろについて歩きながら尋ねた。「孫悟空の二心がどうして外にあるのでしょうか?」
金蝉長老は首を振った。彼にもわからなかったが、何かがこちらへ導いているような感覚があった。
「前に進めば、きっと間違いない」
金蝉長老は言った。「どうしてこの渓谷は見覚えがあるような?」
「もう何度も来ているからですよ」
哪吒は言った。「この山を上り下りすること五回目です。あなたの感覚は本当に確かなんですか?」
金蝉長老は足を止めた。「まずはこの山から出してくれ」
「……」
哪吒は金蝉子様を引き上げ、山から飛び立った。
しばらく飛んだ後、彼らは砂漠の端で小さな人間族の国を見つけた。
二人が通りで焼き餅を買って立ち去ろうとした時、近くで突然大きな音が響いた。
振り向くと、人々が寺を壊し、神像を地面に投げ捨てているところだった。
「あれは文曲星の神像ではないですか?」
哪吒は言った。あの寺は文曲星の寺院で、何も問題がないのに、なぜこの人々は寺を壊そうとするのか?
哪吒は近寄って問いただした。「おい、なぜ寺を壊すのだ!」
彼が声を上げた途端、近くにいた女性が急いで彼を引き離した。
「どこの子供かしら。あの方々は貴族のお方たちよ。関わってはいけません」
女性は親切に告げた。
哪吒は眉をひそめた。「なぜ寺を壊すんですか?」
「文曲星が陛下に試験を行って官吏を選ぶよう求めたので、皆怒っているのです」女性は哪吒の頭を撫でながら言った。「いい子だから、早く家に帰りなさい。この件には関わらないで」
哪吒は女性から離れた。「長老……」
彼は金蝉長老と一緒にその人々と道理を説こうと思ったが、振り返ると金蝉長老の姿が見えなかった。
「長老はまた道に迷ったか」
哪吒は文曲星のことは諦めて、金蝉長老を探しに向かった。
長老の気配を追って、哪吒は街の外れの砂漠にある山村の外まで来た。
「観音村?」哪吒は大きな木札を見て言った。「面白い名前だな」
「坊や、どこから来たの?」鍬を背負って帰る村人が哪吒を見かけて声をかけた。「家まで送ってあげようか」
「この村の人ですか?」哪吒は尋ねた。「僧侶がこちらを通りませんでしたか?」
「僧侶は見ていないね」
村人は笑って言った。「でも、うちの村は僧侶を歓迎しているよ」
この観音村は、小国から追放された罪人たちが建てた村だった。
國王が彼らを受け入れなかったため、彼らは砂漠に村を作り、土地を開墾して生きていった。
村人たちは皆観音様を信仰していた。砂漠で田畑を開墾できたのは観音様の加護があったからだと信じ、村を観音村と名付けたのだった。
哪吒は村人の説明を聞いて、彼らに好感を持った。
かつて彼が肉を削って母に返し、骨を削って父に返した時、魂が西天に行った際も、観音様が取り成してくださったおかげで、仏祖様が彼の体を再生してくれたのだった。
「観音様の加護があるなら、きっとここで菩薩様とお話できるはず」
哪吒はそう考えながら、村人と一緒に村に戻った。
金蝉長老の気配も村の中にあったが、不思議なことに、哪吒がどれだけ探しても見つからず、菩薩様とも話すことができなかった。
村の観音像には香火が絶えなかったが、ごく普通の像だった。
哪吒が立ち去ろうとした時、金蝉長老が物思いに沈んだ表情で村の入り口に立っているのを見つけた。
「長老、なぜわざと私から隠れていたのですか?」
哪吒は尋ねた。
彼は金蝉長老の手にある猿の像に気づいた。「これは猿王の像ではありませんか?どこで手に入れたのですか?」
「村人からもらった」
金蝉長老はため息をつきながら言った。「彼らは肉眼では宝物とは気づかなかったのだ」
彼は村を離れ、数歩進んだところで立ち止まり、猿の像を空に投げ上げた。
哪吒が見上げると、猿の像が突然金光を放ち、村人の家に飛び戻っていった。
「これは……」
哪吒は驚いた。「猿王が加護を与えたのですか?」
普通の猿の像にはこのような飛行の神通力はない。
観音村を守護していたのは観音様ではなく、この猿の像だったのだろうか?
「長老?」
哪吒は金蝉長老を見た。
金蝉長老は深いため息をついた。「私は気づかなかった」
よく考えてみれば、あの猿の像が話をした時から、孫悟空はこういったことができるようになっていたのかもしれない。
彼は猿の像を通じて善行を行っていたが、それは誰にも知られることはなかった。
金蝉長老が気づかなかっただけでなく、天宮の仙人郷の誰もが気づいていなかった。
いや、ひとりだけ気づいていた人がいるかもしれない……
「仏祖様はとうに知っておられた」
金蝉子様は心の中で悟った。
元々それほど明確ではなかった二心の印は、あの猿の像を見た時にとても鮮明になった。
あの猿の像には、慈悲の心だけでなく、それ以上のものがあった。
金蝉子様が顔を上げると、馬車が空を飛んでいくのが見えた。
「文曲星?」
哪吒は馬車の中の仙人の正体を感じ取った。
しかしあの馬車は花果山の馬車だった。
「南無阿弥陀仏」
金蝉子様は懐から別の猿の像を取り出し、それに感謝の言葉を述べた。
「大王様、大王様!」
水簾洞で、妖狐様は孫悟空を揺り起こした。
「どうした?」
孫悟空は目を開けた。あの金蝉長老はなぜ突然彼の猿の像に関わってきたのだろう。
これは良くない、彼が話すことはないだろうか?
もし話されたら、あの仙人たちは必ず香火を奪ったと非難するだろう。
「大王様!」
妖狐様は不機嫌な顔で言った。「私の今の歌は良かったですか?」
「良かったよ」
孫悟空は適当に頷いた。
「全然聞いていなかったじゃないですか!」
妖狐様は怒って立ち去った。
孫悟空は隣の敖鸞を見た。彼女は目を拭いており、顔には感動の色が満ちていた。
「今、どんな歌を歌ったんだ?」
孫悟空は尋ねた。
敖鸞は彼を睨みつけた。「蒹葭です!」
これは恋歌で、愛する人を追い求めても得られない悲しみを表現したものだった。
これは妖狐様が嫦娥仙子様と競い合うために選んだ歌だった。
敖鸞はわざわざ彼女を招いて孫悟空に聞かせ、この石頭が少しでも悟るかどうか見てみたかった。
彼女は孫悟空が聞きながら眠ってしまうとは思わなかった。
「蒹葭か、確か恋歌だったな?」
孫悟空は言った。
最近、時々妖狐様が鏡を持って歌を口ずさむのを見かけたので、羅刹女に尋ねてみたのだった。
羅刹女の答えがまさにこの歌だった。
「妲己は本当に上手くなってきているな」
孫悟空は心の中で思った。
自分に向かって蒹葭を歌うなんて、妖狐様の境地は彼にも理解できないほどになっていた。