第590章 魔女の戦い

くそっ、これらの魔女たちの心は散り始めている、とヘティは怒りを込めて思った。大公島にいた頃は、なぜなどと問うことはなかった——血牙会の敵は、死ぬしかなかったのだ。

環境は人を最も変える。険しい山々からは凶暴で狡猾なロックウルフが生まれ、暖かい小屋からは愚鈍で無能な犬しか育たない。補助魔女たちは「眠りの魔法」で島に大量のゴールドドラゴンと物資をもたらし、ここを危険のない安楽の地に変えてしまった。戦闘魔女たちまでもがティリーの誤魔化しを信じ始めている。残された時間は明らかに少なくなっていた。

「種の発動時期はコントロールできるんでしょう？」

「はい」

「よろしい。安息の種を植え付けても、すぐには効果を出さないように。アニーがビューティー号に運ばれてから、静かに彼女を送り出すのだ」ヘティは頷きながら言った。「さあ、この裏切り者に会いに行きましょう」

その時、アニーは船上で寒疫の症状で死亡し、船員たちは感染を避けるため、必ず遺体を海に投げ込むだろう。そうすれば、誰もこの事件の真相を突き止めることはできない。

「昼間に行動を起こすんですか？」日暮は驚いて言った。

「夜なら更に怪しまれる。それに、カミーラが私を行宮に入れるとは限らない」ヘティは彼女を一瞥して言った。「砂の姫が、狼心から来た魔女が病気で昏睡状態だと聞いてきた。狼心王国の代表として血牙会が、病状を見舞うのは当然のことではないか？」

「ご明察です」スカイフレイムは長衣の後ろのフードを引き上げた。「私たちが行かなくても、彼女に何かあれば、ティリーとカミーラは私たちを疑うでしょう」

ヘティは雨合羽を着て、扉を開けた。強風が雨を伴って室内に流れ込んできた。彼女は後ろの二人に手を振り、そして暴風雨の中へと踏み出した。

彼女はすでに決意を固めていた。

……

三人が行宮の中庭に入ると、代理執事のカミーラ・ディリがすぐに入り口に現れた。「あなたたちは……」

「砂の姫から聞いたのですが、島に狼心の新しい魔女が来たとか？」ヘティ・モーガンは肩をすくめて言った。「状態が悪いと聞きましたので、様子を見に来ました」

「アニーはデーラの看護の下で眠っています。邪魔しない方がいいと思います」

「ただ見るだけです。この名前にどこか覚えがあって、もしかしたら血牙会にいた者が、大公島から逃げる時に私たちとはぐれたのかもしれません」

「それは……」カミーラは少し躊躇した。「では、どうぞ」

この短い会話だけでヘティの忍耐は限界に達していた。ただの普通の魔女が、ここを自分の領土のように扱っている。眠りの島の大執事？彼女は内心冷笑した。ティリーの下僕に過ぎない。最後の「どうぞ」という言葉がなければ、相手に苦しみを味わわせるつもりだった。

眠りの島の住居のほとんどがロタスによって地下から持ち上げられているため、一階建て以上の建物は少なく、ティリーの行宮も例外ではなかった。

長い廊下を通って脇部屋に着くと、カミーラは体を横に向けた。「彼女はこの中です」

「ええ」ヘティは急いで部屋に入り、スカイフレイムに頷いて合図を送った。

後者はベッドの上で目を閉じている女性を注意深く見つめ、かすかに頷いた。

「誰が連れてきたのですか？」ヘティはカミーラの側に寄り、声を低めて尋ねた。相手を気遣うふりをしながら、実際は大執事の視線を遮るためだった。日暮に一瞬の時間さえあれば、安息の種をアニーの体内に植え付けることができる。

カミーラは答えず、奇妙な表情を浮かべた。

「なぜ彼女を殺そうとするの？」

ヘティは一瞬固まったが、反応する間もなく、後ろの日暮が叫び声を上げた。「この魔女は偽物です！」

彼女は急いで振り返ったが、ベッドの上の人は既に消え、魔力で凝縮された黒い小球が宙に浮かんでいるだけだった。

「安息の種……本当にやる気だったのね」カミーラは首を振った。「戦闘魔女の味方をしているだけだと思っていたのに、まさか残虐な殺人者だったとは！」

「黙れ！」ヘティはもはや憎しみを抑えきれず、致命的な魔力を相手に向けて放った。しかし相手に当たった瞬間、その姿は白い霧となって消えた。

ヘティはすべてを理解した。

「ダークシャドー！」彼女は歯ぎしりしながら叫んだ。「出てこい！」

廊下から急ぎ足の音が聞こえ、明らかに暗闇に隠れていた魔女が全力で逃げ出そうとしていた。

「スカイフレイム、捕まえろ！」

「はい」後者は脇部屋から飛び出し、深く息を吸い込んでから、前方に猛烈な炎を吐き出した。灼熱の炎は意思を持つかのように壁に沿って這い、逃げる者を追いかけ、途中のドア枠や窓を焦がしていった。

「あっ！」遠くから悲鳴が聞こえた。

「ヘティ様、早く此処を離れましょう！」日暮は切迫した様子で言った。「彼女たちはあなたを騙しています。これは罠です！」

「窓から出る」ダークシャドーの悲鳴は気持ちを晴らしてくれたが、ヘティもここにいられないことを理解していた。ただ、なぜティリーが血牙会の数年前の事を知っているのか理解できなかった。

行宮から飛び出すと、三人は足を止めた。

豪雨の中、黒髪の女性が庭園に立っていた。彼女の目は金色の星のようで、雨霧の中でもはっきりと見えた。武器を持っていないにもかかわらず、そこに立っているだけで、彼女たちは大きなプレッシャーを感じた。

超越の魔女、アッシュ。

彼女は通常、ティリー・ウィンブルトンの側にいるはずだった。

ヘティは横を向き、行宮の入り口に他の二つの見慣れた姿を見つけた。

アンドレアとダークシャドー。特に後者は、何事もなかったかのように彼女たちに向かって変な顔をしていた。明らかに先ほどの悲鳴も演技だったのだ。

二人とも居るということは、ティリーが眠りの島を離れていなかったことを意味する。

ヘティの心は完全に沈んだ。

「説明は必要ありません。今、降伏すれば命は取らない」アッシュは一言一句はっきりと言った。

誰も彼女が誇張していると思わなかった。超越者として、神罰の石を身につければ、すべての魔女の天敵となる。彼女の存在がなければ、ヘティは今日まで我慢することはなかっただろう。

しかし……チャンスがないわけではない。

突破口は行宮の入り口にある——あの二人を制圧できれば、アッシュを脅すことができるかもしれない。

彼女はほとんど躊躇することなく、日暮を掴んで行宮の正門に向かって突進した。「スカイフレイム、アッシュを足止めしろ！」

戦闘魔女として、能力が効かない時は、短剣と暗器が最高の武器となる。スカイフレイムは短剣を抜き、アッシュに向かって突進し、日暮も彼女の意図を理解し、共生の種を手に召喚した。

威圧力のない脅しは無意味だ。ヘティはすでに一人を殺し、もう一人を人質として取ることを決意していた。最初の標的は当然、彼女たちを長い間嘲笑っていたダークシャドーだった。

そしてアンドレアは慌てることなく、手にした長い鉄棒を掲げた。

あれは何——

彼女の頭にその考えが浮かんだ瞬間、轟音が彼女の体を完全に麻痺させた。

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