第409話 サヨナラホームラン
北原秀次は打線に立ち、巨野高校がまだサイドラインで緊急ミーティングを開いているのを見て、バットを支えながら静かに待っていた——雪里が強制的にバットを振って得点を狙おうとした結果、混乱のうちに三塁まで進んでしまったことで、巨野高校の戦術計画が完全に狂ってしまったようだ。
巨野高校は確かに動揺していて、一時的にどう対応すべきか判断できなくなっていた。
現在第九回裏、私立大福学園は無死、三塁に走者がいる。しかも三塁の怪物は走りが異常に速く、得点まであと一歩という状況で、これは確かに巨野高校を苦しめていたが、この局面さえ乗り切れば、勝利の天秤は再び彼らに傾くはずだ。今彼らは、もう一人の怪物を敬遠し続けるべきかどうかを議論していた。
元々彼らは北原秀次を最後まで敬遠する予定だった。彼は前の試合で並外れた粘り強さを見せ、自分たちのピッチャーに大きなプレッシャーをかけていたが、今は怪我を抱えている。果たして打てるのだろうか？
もし打てないのなら、彼の打席を一つ潰すのも悪くない。少なくとも相手の得点確率を三分の一下げることができる。もし打てるとしても、怪我のせいで実力は大きく低下しているはずだ。それを利用して三塁の脅威を消すことはできないだろうか？
例えば彼が打球を放った場合、一塁は放置して、全力で三塁の女子を刺しにいくのはどうだろう？三塁の女子が動かなければ、今度は彼を刺せば、相手の一人をアウトにできる。最悪でも彼が一塁に出るだけだ——元々一塁まで敬遠するつもりだったのだから。
彼が粘り強く戦おうとしても構わない。それならさらに彼の体力を消耗させることができる！こうすれば第九回裏を乗り切りさえすれば、彼の崩壊はより早まるはずだ。
ただし、彼に直接得点を取る能力があるだろうか？
巨野高校は素早く北原秀次の過去のデータを分析し、地域大会の記録ではほとんどヒットの記録がなく、ホームランで直接得点した記録も全くないことを発見した。打席のほとんどは地味な結果に終わり、本戦に進出してからも粘り強さは際立っていたものの、チームメイトの得点に貢献したことはなく、長打力はそれほど高くないようだった。
以前からそれほど良くなかったのに、今は怪我を抱えているのだからさらに厳しいはずだ。勝負するべきだと感じた。
巨野高校の作戦会議はすぐに終わり、決心を固めた。北原秀次への敬遠を取りやめ、計画を変更して、ここで決着をつけることにした。この局面を転機として試合を逆転し、勝利を掴もうと決意した。
試合が再開され、巨野高校のピッチャーが再びマウンドに上がった。北原秀次も横向きにバットを構え、巨野高校の守備陣形を注意深く観察し、良し悪しに関わらず強引に打つ準備をした——うまく打てれば、雪里に3秒の時間を作ることができ、雪里は必ずホームに滑り込めるはずだ。ただ、相手が雪里にやられた教訓を活かして、今度は敬遠でも極端に外すのではないかと心配だった。
しかし、すぐに雑念を払い、息を殺して完全に集中力を高めた。相手ピッチャーの動きが彼の目にはスローモーションのように見え始めたが、すぐに少し驚いた——この構えは全力投球だ。ストライクゾーンに来そうだ。作戦を変えたのか？
パチンという音と共に、ボールがキャッチャーミットに収まった。彼の判断は正しく、確かにストライクだった——相手が勝負してくるなら、急いで強引に打つ必要はない。良いチャンスを待てばいい。
彼は感覚を失った右肩をさすりながら、サイドラインの鈴木希の方を見た。何か良いアドバイスがないか確認しようとした。鈴木希はグラウンドを見回し、表情は変えなかったが、心の中では喜んでいた——相手の陣形がゆっくりと前進し、内野の守備を重視している。これは相手がついに正面から勝負を挑んでくるということか？
相手は目の見えないこの北原に長打力がないと判断したのか？
彼女はすぐに北原秀次にいくつかのサインを送り、落ち着いてボールを選んで打つように、できるだけ遠くへ飛ばすように、雪里にチャンスを作るように指示した。北原秀次は軽くうなずいて理解を示し、深く息を吸って再び集中力を高めた——相手がどう考えているかは分からないが、このゲームを終わらせる時が来たのだ。
巨野高校のピッチャーは北原秀次の気迫が少し変化したことに気付いた。彼から突然鋭い気が漂い始めたようだった。キャッチャーは北原秀次により近い位置にいたため、横目で見た時に直視するのが怖くなるほどで、心の中で不安を感じ始め、突然打たせるのは良くないかもしれないと思い始めた。しかし九回裏で相手が三塁にいるプレッシャーは確かに大きく、怪我人と勝負する方が、怪我していない三人と戦うよりはましだろう。
キャッチャーは少し考えた後、やはり勝負すべきだと判断したが、安全を期して相方にストライクからボールに変化する変化球を要求し、様子を探ることにした。ピッチャーは異議なく、三塁の雪里の方を振り返って見たが、彼女は三塁に留まったままで前に出る様子はなく、牽制の必要はないと判断し、すぐに横向きに膝を上げて全力で投球した。
北原秀次は慎重に彼の投球フォームを観察し、心の中でボールコースを予測し、素早い反応力と組み合わせて、瞬時にこのボールはストライクゾーンから外れているが打てると判断した。そして非常に果断に【呼吸力】スキルを発動し、激痛を我慢して全力でバットを振り、予測打撃を行った。
巨野高校が夏の甲子園決勝まで勝ち進んできただけあって、ピッチャーのレベルは当然高く、球速は150キロを超え、ボール球でも真剣に投げており、ストライクゾーンを外れた時も微かな落差を付け、打たれても内野に落ちるように工夫していたが、この努力は全く意味をなさなかった。
北原秀次の強烈な打撃は雪里に劣らない力を持っており、バットがボールに当たった瞬間、ボールは完全に潰れ、回転も効果を発揮する間もなく、小さな角度で斜め上方に打ち上げられ、白い光の軌跡となって飛んでいった。
場内のほとんどの人が息を止め、その白い光を目で追っていた。多くの人が思わず席から腰を浮かせ、より良く見えるような気がしたのだろう。そしてしばらくして、そのボールは電光掲示板の柱に当たり、外野スタンドに斜めに跳ね返って、小さな騒ぎを引き起こした。
巨野高校の外野手がようやく外野スタンドのフェンス前まで追いついたが、もはやどうすることもできず、絶望的な表情を浮かべた。
場内は一瞬静寂を保ったが、私立大福学園の応援席が最初に沸き立ち、歓声が一つになって広がった。続いて観客席からも拍手が起こった——サヨナラホームラン、一打で勝負が決まり、私立大福学園がこの試合に勝利した。
実況席で、曾木宗政は北原秀次のクローズアップを見つめながら、このホームランについて多くを語らなかった——北原秀次の活躍は誰の目にも明らかで、今さら賛辞を重ねる意味はない——ただ大きな声で宣言した：「今年の夏の甲子園優勝は愛知県私立大福学園に決定しました。」
言い終わって相方の反応がないことに気づき、横を向くと小西宮雅子が北原秀次を見つめ、名残惜しそうな表情を浮かべているのを見て、思わず笑って言った：「雅子ちゃん、大丈夫よ、これからもテレビで北原選手を見る機会はたくさんあるわ。」
小西宮雅子はようやく我に返り、少し恥ずかしそうに急いで取り繕った：「宗政先輩、私は北原君のケガが将来のプロ野球選手としての……あれ？！」試合を決めるサヨナラホームランを打った選手として、カメラは当然北原秀次を追い続けていたが、画面の中の北原秀次が突然走り出した。
曾木宗政もそれを見て、思わず笑みを漏らした：「苦しい試合に勝って、北原選手は興奮しているんでしょう。それは十分理解できます。しかし北原選手の体力は本当に素晴らしいですね。片腕が不自由なのにあんなに速く走れて...あれ？後ろの残像は福泽選手ですか？福泽選手の方が更に速いですね...あ、追いついた、これは...」
雪里はとても嬉しかった。任務の90%は完了したと感じていた。あとは鈴木希が死んで、その墓石に文字を刻むだけで仕事は完了だ。友人としての義務を完璧に果たしたと言えるだろう。本当に嬉しかった。北原秀次と喜びを分かち合いたいと思った。北原秀次は逃げようとしたが逃げ切れず、最後は雪里に押し倒された。
彼は必死に抵抗した。これは玉龍旗優勝の時とは違う。あの時は雪里に抱き上げられて回されても、せいぜい恥ずかしい程度で済んだが、夏の甲子園優勝で雪里に持ち上げられてグラウンドを一周されたら、それこそ大騒ぎになる。これからは整形でもしない限り外出できなくなるだろう。
幸いにも最悪の事態は避けられた。私立大福学園の選手全員が優勝を祝うためにグラウンドに駆け込んできて、興奮して彼の方へ向かってきた。最後は全員で彼を持ち上げた——大勢で持ち上げられるのなら問題ない。雪里一人に持ち上げられなければそれでよかった。
チームのメンバーは本当に興奮していた。半月前には、誰も本気で優勝を考えていなかった。ほとんどが見学気分で来ていて、甲子園で野球ができるだけでも良いと思っていた——地区大会で勝って旗をもらえただけでも皆喜んでいたのに、今や甲子園球場で優勝してしまった。まるで夢のような感覚で、一生自慢できる話だ。多くの選手が感極まって涙を流し、何を叫んでいるのか自分でも分からないほどだった。とにかく叫べばよかった。
鈴木希は走るのが遅く、最後尾になっていた。皆が北原秀次を投げ上げているのを見ても妬まず、ただ笑みを浮かべながら球場全体を見渡していた。とても良い気分だった。彼女はここを征服し、その名前は100年近い歴史を持つこの球場と永遠に結びつくことになる。本当に良い気分だった——優勝チームは球場外の「野球塔」に刻まれ、彼女の名前ももちろん刻まれる。同時に記念館にも展示され、後世の人々の「瞻仰」を受けることになる。これで将来父親との争いに負けたとしても、静かに消えていくことはない。この世に生まれてきた意味があったと言える。
彼女はそのように笑みを浮かべながら人だかりの周りを何周か回った後、ようやく北原秀次を救出し、怪我の具合を確認しに連れて行った。
北原秀次は怪我を抱えながら完投した上に、雪里に追いかけられ、さらに皆に投げ上げられたりしたので、今はちょっと目が回っている感じがした。そのため鈴木希に支えられるままにしていた——彼の正式な彼女はすでに応援席の下で歓声を上げており、興奮のあまり彼のことを忘れていたが、彼は気にしていなかった。雪里はそういう子供っぽい性格で、人見知りがないのだ。
数歩歩いて、横目で得意げな表情の鈴木希を見て、思わず笑って言った：「おめでとう。ついに願いが叶ったね。」この妖精も中々やるものだ。回りくどい方法で目的を達成した。
鈴木希は彼を一瞥し、にこやかに言った：「北原様のお陰です。きちんとお礼をしないと！」
「身体で払うお礼以外なら、なんでも構わないよ！」北原秀次は鈴木希の感謝の言葉を気にしていなかった。この子が満足してくれれば、これからは悪さも減るだろう。それで彼も満足だった。
鈴木希は残念そうな素振りを見せたが、実際にはあまり気にしていなかった。時間はまだたっぷりある。最後に笑う者が一番よく笑うのだ。彼女は急いでいなかった。ただにこやかに尋ねた：「私の願いは叶いましたが、北原様には何か私にできる願いはありますか？」
「僕の願い？」北原秀次は空を見上げ、海風を感じながらしばらく考えて言った：「家に帰りたいな。」
以前は毎日一緒にいても気づかなかったが、半月以上も離れていると、小ロブヘッドに会えないのが少し寂しく感じていた。
今や自分にも家族がいるのだから、外で疲れたら、やはり家に帰るべきだ。