第9章 私はどうやって彼を誘惑したの？

「ママ、今激しいチーム戦をしているの！~後ろに気をつけて！悠佑、何回死んだの？出前の配達より速くね！？」

ソファに座っている寺田芽は、頭を上げずに苛立ちながら怒鳴った。

寺田凛奈は仕方なく、ドアを開けに行った。

外に立っていたのは藤本凜人ではなく、20歳前後の男性だった。彼は白いカジュアルウェアを着て、壁にもたれながらスマホでゲームをしていた。藤本凜人に似た細長い目が少し上がっており、眉目には陽気で無害な感じが漂っていて、見るからにお育ちの良いお坊ちゃんだ。

ドアが開くのを見て、藤本悠佑はまず声を低くしてゲームで言った。「ボス、どうせ俺は死んだから、この試合はボスに任せたよ」

言い終わると音声をオフにし、ようやく顔を上げて寺田凛奈を上下に見た。

女性の肌は驚くほど白く、本来はおとなしそうなアーモンド形の瞳を少し伏せていた。無表情な顔には少し疲れと眠気が見えた。彼女は低い声で「何か用？」と言った。

なるほど、兄を誘惑する勇気があるわけだ。やっぱり、見た目にはそれだけの魅力があるんだな。

藤本悠佑は口を開いた。「寺田さん、お願いがあるんですが、下の階のスイートルームに引っ越してもらえませんか？このプレジデンシャルスイートを空けてもらいたいんです」

寺田凛奈は眉を上げた。「なぜ？」

藤本悠佑はカードを差し出した。「一応、念のために言っておきますけど、このホテルは藤本家のです。本来なら規則によると、ホテルが理由なく退室を求めた場合、違約金の2倍を補償する必要がありますが、このカードに2000万円入っています......」

「……」

寺田凛奈は言葉に詰まりながらそのカードを見つめた。

彼女はそんなに貧乏に見えるのか？なぜみんな彼女をお金で追い払おうとするのか？

彼女が承諾しないのを見て、藤本悠佑は脅すように言った。「もし同意しないなら、警備員に出ていってもらうしかありませんが、寺田さんもそんな醜態を晒したくないでしょう？」

彼女を脅すとは。

寺田凛奈の目つきが冷たくなった。すると藤本悠佑は続けた。「寺田さん、あなたは何度も兄を誘惑しようとしました。子供を連れているあなたの立場も考えて、こうしているんです。そうでなければ、ルームの変更だけでは済まないところでした！」