第262章 薬を売る~

実験室で、寺田凛奈が薬炉を開けると、扉越しにも濃厚な漢方薬の清々しい香りが一気に押し寄せてきて、その香りを嗅いだ瞬間、人を精神的に高揚させた。

この香り……

頭をすっきりさせ、数日間の疲れを一掃するような香りだった。老薬剤師はかつてこの香りを嗅いだことがあった。これは……五十嵐安神丸だ!

当時、三原御医がこれを調合したとき、彼はその場にいて、助手として手伝っていた……

でも、どうして……

この寺田さんの薬の調合過程は三原御医とは全く異なっていた。使用する材料は同じだが……

渡辺光春はこういったことはよくわからなかったが、師匠が失敗したと言うのを聞いて、すぐに心を痛めた。しかし彼女は真っ先に凛奈を慰めに行こうと思った。凛奈姉さんが自責の念に駆られたり、落ち込んだりしないように。