実験室で、寺田凛奈が薬炉を開けると、扉越しにも濃厚な漢方薬の清々しい香りが一気に押し寄せてきて、その香りを嗅いだ瞬間、人を精神的に高揚させた。
この香り……
頭をすっきりさせ、数日間の疲れを一掃するような香りだった。老薬剤師はかつてこの香りを嗅いだことがあった。これは……五十嵐安神丸だ!
当時、三原御医がこれを調合したとき、彼はその場にいて、助手として手伝っていた……
でも、どうして……
この寺田さんの薬の調合過程は三原御医とは全く異なっていた。使用する材料は同じだが……
渡辺光春はこういったことはよくわからなかったが、師匠が失敗したと言うのを聞いて、すぐに心を痛めた。しかし彼女は真っ先に凛奈を慰めに行こうと思った。凛奈姉さんが自責の念に駆られたり、落ち込んだりしないように。
何か言おうとしたその時、師匠が突然扉を押し開けて中に飛び込んでいくのを見た。
渡辺光春は驚いて、急いで後を追い、老薬剤師の袖を引っ張った。「師匠、何をするんですか?」
凛奈姉さんが薬の調合に失敗して、すでに落ち込んでいるのに、師匠がさらに何か悪いことを言ったら、凛奈姉さんはどう耐えられるだろうか!
師匠の顔色を見ると、やはり感情が高ぶっていて、自制できていないようだった。すぐに口を開いた。「師匠、あの、落ち着いて、落ち着いてください……」
老薬剤師は唇を震わせながら、「どけ、落ち着けないんだ!」と言った。
彼は五十嵐安神丸の誕生を目撃したかったのだ!
しかし渡辺光春は一歩も譲らなかった。もし師匠が手を出したらどうしよう?凛奈姉さんを殴らせるわけにはいかない!彼女は咳払いをして言った。「師匠、失敗したとしても、薬を調合するときは成功と失敗があるものですよ。次は成功するかもしれません!」
老師匠は「次はない!」と言った。
渡辺光春は師匠が怒り狂っていると思った。「そうですね、次はありませんね。うちの工場にも500年物の人参はもうないし、怒らないでください……」
老師匠は焦りきっていた。「そういう意味じゃないんだ、早く退いてくれ。彼女が何個成功したか見に行きたいんだ!」
渡辺光春は「師匠、凛奈姉さんを殴っちゃだめですよ。無駄になった人参は私が……え?」