第311章 5年前

寺田雅美はいつも冷静な人だったが、寺田真治の前では、いつも見透かされているような気がした。

  先ほど助手がいなかった10分間は、彼女にとって最も耐え難い10分間だった。

  他人の前では完璧に振る舞えるのに、この兄は常に彼女の心を見透かすような目をしていた。

  先ほど、彼はわざと話さずに座っていただけだったが、わずか10分間で彼女には一日が一年のように感じられた。

  だから助手が戻ってきたとき、思わずこんな質問をして、自分の心の内をすべてさらけ出してしまった。

  そしてその言葉を発した瞬間、彼女は「しまった」と思った。

  振り向くと、案の定、寺田真治が彼女を見つめていた。普段は他人に対して穏やかな表情をする彼の目が、今は鋭く冷たかった。

  寺田雅美はゴクリと唾を飲み込んだ。