第311章 5年前

寺田雅美はいつも冷静な人だったが、寺田真治の前では、いつも見透かされているような気がした。

  先ほど助手がいなかった10分間は、彼女にとって最も耐え難い10分間だった。

  他人の前では完璧に振る舞えるのに、この兄は常に彼女の心を見透かすような目をしていた。

  先ほど、彼はわざと話さずに座っていただけだったが、わずか10分間で彼女には一日が一年のように感じられた。

  だから助手が戻ってきたとき、思わずこんな質問をして、自分の心の内をすべてさらけ出してしまった。

  そしてその言葉を発した瞬間、彼女は「しまった」と思った。

  振り向くと、案の定、寺田真治が彼女を見つめていた。普段は他人に対して穏やかな表情をする彼の目が、今は鋭く冷たかった。

  寺田雅美はゴクリと唾を飲み込んだ。

  彼女は頭を下げた。

  助手は明らかに兄妹の間に何か異常を感じ取り、慌てて頭を下げて答えた。「このカードが初めて使用されたのは、5年前の海外でした。申込者の情報は残っていませんが、最初の使用者は寺田凛奈さんでした。」

  つまり、これは記名式のカードではないが、間違いなく寺田凛奈のカードだということだ。

  寺田雅美は先ほど寺田真治に見つめられたときにはもう話せなくなっていたが、今回は衝撃を受けながらも唇を噛んで尋ねた。「彼女と藤本さんは5年前から知り合いだったの?」

  助手は一瞬驚き、寺田真治を見た。

  寺田真治は出口を見た。助手はすぐに察し、静かに頭を下げて退出し、気を利かせてドアを閉めた。

  ドアが閉まるやいなや、寺田真治の穏やかで冷たく感情のない深い声が聞こえた。「このカードが藤本凜人のものだと思いたかったのか?なぜだ?」

  寺田雅美:!!

  彼女は慌てて顔を上げた。「お兄さん、説明させて。私は……」

  しかし、寺田真治の冷静で嘲笑的な視線に出会うと、寺田雅美は口を閉じた。

  なぜなら、彼女は自分が何を言っても今は無駄だということを知っていたから。

  彼はすべてを理解している。

  寺田雅美は頭を下げた。「お兄さん、あなたの目には私と彼女のどちらが大切なの?私こそが法律上のお父さんの娘なのに……」