寺田凛奈はまだ車の中にいて、老いぼれを見かけると窓を下ろした。そのため、彼女のつぶやきは小さな声だったにもかかわらず、老いぼれの耳に届いた。
一枚一枚?
詩乃?
詩乃……渡辺詩乃?!
彼は母を知っているのだ!
この思いが、寺田凛奈にブレーキを踏ませ、すぐに車から飛び出して老いぼれの前に来させた。彼女は老いぼれの手を掴んで尋ねた。「あなたは私の母を知っているの?」
老いぼれは彼女をぼんやりと見つめ、目は混濁していた。
寺田凛奈は眉をひそめ、促した。「渡辺詩乃です。」
老いぼれはその名前を聞くと、すぐに興奮して叫んだ。「詩乃!」
寺田凛奈:!!
彼は確かに渡辺詩乃が誰なのか知っているのだ。
寺田凛奈は入り口にいる警備員に車を戻してもらい、老いぼれの腕を支えた。「どこにお住まいですか?お送りします。」