寺田凛奈はまだ車の中にいて、老いぼれを見かけると窓を下ろした。そのため、彼女のつぶやきは小さな声だったにもかかわらず、老いぼれの耳に届いた。
一枚一枚?
詩乃?
詩乃……渡辺詩乃?!
彼は母を知っているのだ!
この思いが、寺田凛奈にブレーキを踏ませ、すぐに車から飛び出して老いぼれの前に来させた。彼女は老いぼれの手を掴んで尋ねた。「あなたは私の母を知っているの?」
老いぼれは彼女をぼんやりと見つめ、目は混濁していた。
寺田凛奈は眉をひそめ、促した。「渡辺詩乃です。」
老いぼれはその名前を聞くと、すぐに興奮して叫んだ。「詩乃!」
寺田凛奈:!!
彼は確かに渡辺詩乃が誰なのか知っているのだ。
寺田凛奈は入り口にいる警備員に車を戻してもらい、老いぼれの腕を支えた。「どこにお住まいですか?お送りします。」
老いぼれは口を開いて笑い、頷いた。「大きな白いまんじゅうをくれるかい?」
「はい、あげます。」
「よし、よし。」
老いぼれは寺田凛奈の後ろについて行き、二人で老いぼれの住まいに向かった。
空はすでに暗くなっていて、庭園全体が黒いベールに覆われたようだった。珍しく霧がかかっていない空には、いくつかの星が輝いていた。
大都市では明かりが輝いているため、星を見るのは難しくなっている。
しかし、この広大な庭園の周りには人がほとんど住んでおらず、簡素な平屋が数軒あるだけで、今は明かりも消えているため、視界がより開けて見えた。
老いぼれが先に立って歩き、一番端にある平屋に着くと、ドアを開け、明かりをつけた。寺田凛奈の視界がようやく楽になった。
彼女は老いぼれの住まいを見回した。
老いぼれ本人とは違って、比較的きれいで整頓されていた。管理人の言う通り、寺田家が彼を虐待していないというのは本当のようだった。
老いぼれの体中に火傷の跡があり、風呂に入るのを嫌がるため汚く見えるが、ベッドシーツはよく交換されていて清潔だった。部屋にも特に臭いはなかった。
寺田凛奈が数回見回した後、老いぼれはこっそりと棚からまんじゅうを取り出し、寺田凛奈に差し出した。「詩乃、食べな……」
また詩乃か……