第359章 私たち夫婦~

この言葉が出るや、廊下全体が静まり返った。

  全員が手術室の入り口に目を向けた。そこには寺田凛奈が手術着姿で立っていた。顔ははっきりと見えないにもかかわらず、皆は彼女から「落ち着いた」という四文字を感じ取った。

  彼女は話しながら手袋を外し、手袋を脱いだ後、何気なく手術帽とマスクを取り外した。長い髪が肩に落ち、妖艶な顔立ちが露わになった。

  マスクと帽子がきつかったせいで、頬には二本の赤い痕が残っていて、少し滑稽に見えたが、今この瞬間誰も笑う余裕はなかった。

  なぜなら、彼女の眼差しは冷たく無感情で、髪の毛一本一本までが手術時の真剣さを物語っていたからだ。

  藤本凜人は彼女を見つめ、なぜか誇らしい気持ちが湧き上がってきた。彼はゆっくりと口元を緩めた。

  一方、寺田真治の狐のような目には、今や賞賛の色が加わっていた。

  石山博義の目はまだ漆黒のままで、何の感情も読み取れなかったが、目の肥えた人なら、彼の背中の緊張が先ほどほどではなくなっているのが分かっただろう。

  三人の男性がそれぞれ思いを巡らせる中、この静寂を破ったのは寺田雅美だった。彼女は驚いて叫んだ。「あなた、どうしてここにいるの?」

  寺田凛奈はゆっくりと歩み出て、手袋を手術室の入り口に立っている私服警官に投げた。その男は思わず受け取ってしまい、手に持ってから我に返り、まるで子分のようだったことに気づいた。手袋を彼女に返そうとしたが、どう切り出せばいいか分からなかった。

  寺田凛奈は手首をほぐし、こわばった首を動かした。

  先ほど老いぼれの治療に鍼灸療法を使った時は、全神経を集中させ、油断することはできなかった。それが1時間半続いた……そして拘束されていた8、9時間を加えると、彼女はすでに11、12時間も眠っていなかった!

  今や彼女の気性は極限まで荒れていた。眉をひそめ、普段は大人しそうな目が今は殺気立っていた。その杏色の瞳で寺田雅美を一瞥し、非常にいらだった声で言った。「頭を使えないの?ここにいるのは当然、治療のためよ」