第371章 彼女はついに目覚めた

「バン!」木田柚凪はそう言うと、ドアを閉めてしまった。

  寺田真治:「……」

  ドアが閉まった後、真治は藤本建吾が尋ねる声をかすかに聞いた。「ママじゃないの?誰なの?」

  木田柚凪:「ああ、うるさい蚊よ」

  寺田真治:「……」

  30分後。

  心が乱れた柚凪は窓の方をちらりと見た。

  その一瞥で彼女は驚いた。

  寺田真治が玄関に立っているのが見えた。背の高くすらりとした体が地面に長い影を落としている。

  ふと、柚凪は数年前に戻ったような気がした。あの頃、学校で授業が終わり教室を出ると、いつもこんな姿が外に見えたものだった。

  でも、あの頃の彼は彼女を興奮させ、喜ばせるものだった。

  今、その影は少し孤独で寂しげに見え、心が痛んだ。

  柚凪は視線を戻し、床を見下ろした。心の中で感情が渦巻き、複雑な思いだった。

  しばらくして柚凪が再び顔を上げると、玄関のその影が消えていた。心に空虚な感覚が襲ってきた。

  何とも言えない気持ちだったが、無理に笑顔を作って藤本建吾に向かって言った。「お母さんがもうすぐ帰ってくるわ」

  建吾はうなずいたが、口を開いた。「でも、おじさんが具合悪そうだった」

  具合が悪い?

  柚凪は彼の視線の先を見た。寺田真治がいつの間にか場所を変えていて、今はリビングの窓際の隅に立っていた。

  彼は片手で胃を押さえ、もう片方の手で壁を支えて、うつむいていた。

  本当に具合が悪いのか、それとも照明のせいか、今の彼の顔色が悪く、唇が透明なほど白く、額に冷や汗をかいていた。

  「おじさん、すごく痛そう。ママ、中に入れてあげようよ?」

  藤本建吾の言葉が柚凪の思考を中断させた。

  彼女は冷たく言った。「死んでも私には関係ないわ」

  そう言いながらも、視線は外に向けたままだった。

  心の中で冷笑せずにはいられなかった。

  またこの手か。

  学生の頃から、彼は弱々しいふりをするのが得意だった。彼女を怒らせるたびに、寮の外に立っていて、雨が降っても動かなかった。

  彼は謝らない。ただ頑固に立っていて、彼女の心を柔らかくさせる。