「バン!」木田柚凪はそう言うと、ドアを閉めてしまった。
寺田真治:「……」
ドアが閉まった後、真治は藤本建吾が尋ねる声をかすかに聞いた。「ママじゃないの?誰なの?」
木田柚凪:「ああ、うるさい蚊よ」
寺田真治:「……」
30分後。
心が乱れた柚凪は窓の方をちらりと見た。
その一瞥で彼女は驚いた。
寺田真治が玄関に立っているのが見えた。背の高くすらりとした体が地面に長い影を落としている。
ふと、柚凪は数年前に戻ったような気がした。あの頃、学校で授業が終わり教室を出ると、いつもこんな姿が外に見えたものだった。
でも、あの頃の彼は彼女を興奮させ、喜ばせるものだった。
今、その影は少し孤独で寂しげに見え、心が痛んだ。
柚凪は視線を戻し、床を見下ろした。心の中で感情が渦巻き、複雑な思いだった。