第371章 彼女はついに目覚めた

「バン!」木田柚凪はそう言うと、ドアを閉めてしまった。

  寺田真治:「……」

  ドアが閉まった後、真治は藤本建吾が尋ねる声をかすかに聞いた。「ママじゃないの?誰なの?」

  木田柚凪:「ああ、うるさい蚊よ」

  寺田真治:「……」

  30分後。

  心が乱れた柚凪は窓の方をちらりと見た。

  その一瞥で彼女は驚いた。

  寺田真治が玄関に立っているのが見えた。背の高くすらりとした体が地面に長い影を落としている。

  ふと、柚凪は数年前に戻ったような気がした。あの頃、学校で授業が終わり教室を出ると、いつもこんな姿が外に見えたものだった。

  でも、あの頃の彼は彼女を興奮させ、喜ばせるものだった。

  今、その影は少し孤独で寂しげに見え、心が痛んだ。

  柚凪は視線を戻し、床を見下ろした。心の中で感情が渦巻き、複雑な思いだった。