寺田凛奈は眉をひそめ、心中の不快感は極限に達していた。
あの入江冬月は、初めて会った時から好きになれなかった。
黒猫を利用して話題作り、そしてYを利用して好感度を上げようとして……本当に必死に自分を良く見せようとしている。
でも昨夜の匿名の善行が、彼女に横取りされるなんて?
ふん。
寺田凛奈は目を伏せ、何となく不機嫌になってきた。
しかし彼女は元々気ままな性格なので、何も言わなかった。結局、突然みんなの前に出て行って、私がQですと言うわけにもいかない。正体は守らなければならないのだから。
でも彼女から事を起こさなかったのに、入江冬月との衝突がこんなにも早く訪れるとは!
午後2時か3時頃、暇つぶしに帰ろうとしたところ、向こうから入江冬月と鉢合わせた!
彼女は書類を抱えて、うつむいたまま急いで寺田凛奈に向かって突っ込んできた!
寺田凛奈はすぐに一歩後ろに下がって衝突を避けたが、入江冬月はハイヒールを履いていたせいで、そのまま床に転んでしまった。
「ドン!」という大きな音が、ホールに響き渡った。
他の人々はその音を聞いて、次々と飛び出してきた。
「大丈夫ですか?」
「入江さん、大丈夫?」
入江冬月は苦痛の表情を浮かべ、腰をさすりながら立ち上がると、寺田凛奈を見て溜息をついた。「寺田さん、どうして手を貸してくれなかったんですか?」
寺田凛奈:??
彼女は眉をひそめ、杏色の瞳で入江冬月を見つめながら、ゆっくりと口を開いた。「反応できなかったわ。」
入江冬月は苦痛の表情を浮かべ、可愛らしい顔が歪んで、見ている人の心を痛ませるような様子だった。
彼女は腰をさすりながら、溜息をついた。「まあいいです、私は大丈夫ですから、もう気にしません。」
寺田凛奈は再び頭の中が疑問符だらけになった。
何を気にするというの?
彼女が眉をひそめて横を向いて行こうとした時、入江冬月が突然声を掛けてきた。「寺田さん、暇そうですけど、お願いできますか?この書類をコピーしないといけないんですが、私はちょっと座っていたいので、代わりにコピーしてもらえませんか?」
寺田凛奈の目が冷たくなり、入江冬月の方を向いて、即座に答えた。「暇じゃないわ。」
雑用をさせようとする?
これは入江冬月が意図的に威圧しようとしているのだ!