寺田凛奈の唇には、まだ北京ダックの香りが残っているうちに、男性に強引に唇を奪われた。
清涼な息遣いが一瞬で全ての香りを覆い隠した。
寺田凛奈は藤本凜人とのキスは初めてではなかったが、今回は何故か心臓が早鐘のように鳴っていた。もしかしたら、今回は状況が以前とは違うからだろうか?
彼女が考え事をしている時、下唇を軽く噛まれ、我に返った。男性が彼女から離れるのが見えた。
彼は低い声で言った。「何を考えているんだ?」
その声色には不機嫌さが滲んでいた。
細長い瞳は深遠で、まるで広大な宇宙を包み込んでいるかのように、見通すことも推し量ることもできなかった。
寺田凛奈は普段、誰かのオーラに圧倒されることは稀だったが、この時ばかりは彼に押され気味だった。
彼女が先ほど考え事をしていたのは、二人の行為に対する不敬とも取れた。