第659話 こんにちは、谷本佑仁

寺田凛奈は藤本建吾の脈を取る手を引っ込めた。

藤本建吾の体に大きな問題はなく、子供によくある些細な症状があるだけだった。

遺伝子薬剤は彼に効果がないようだ。

寺田凛奈はそう考えて安心し、目を細めながら電話に出た。

向こうから低い男性の声が聞こえてきた。「もしもし、誰だ?」

寺田凛奈は眉をひそめ、すぐに名乗った。「寺田凛奈です。私が誰か分かりますよね?」

相手は一瞬黙り込んだ。

寺田凛奈はゆっくりと言った。「谷本佑仁さん、あなたは母の元部下だと知っています。聞きたいことがあります。」

名前を指摘されたからか、谷本は口を開いた。「話すことなんて何もない!」

そう言い残して、谷本は電話を切った。

寺田凛奈は自分の携帯を見つめ、顎を引き締めた。

なぜ谷本は話さないのか?

何か隠していることでもあるのか?