寺田凛奈は藤本建吾の脈を取る手を引っ込めた。
藤本建吾の体に大きな問題はなく、子供によくある些細な症状があるだけだった。
遺伝子薬剤は彼に効果がないようだ。
寺田凛奈はそう考えて安心し、目を細めながら電話に出た。
向こうから低い男性の声が聞こえてきた。「もしもし、誰だ?」
寺田凛奈は眉をひそめ、すぐに名乗った。「寺田凛奈です。私が誰か分かりますよね?」
相手は一瞬黙り込んだ。
寺田凛奈はゆっくりと言った。「谷本佑仁さん、あなたは母の元部下だと知っています。聞きたいことがあります。」
名前を指摘されたからか、谷本は口を開いた。「話すことなんて何もない!」
そう言い残して、谷本は電話を切った。
寺田凛奈は自分の携帯を見つめ、顎を引き締めた。
なぜ谷本は話さないのか?
何か隠していることでもあるのか?
そう考えながら、携帯を手に取り、すぐに逆探知を始めて谷本の所在地を調べ始めた。
30分後、谷本の住所を見て凛奈は立ち止まった。そして立ち上がって飛び出し、車を走らせて病院へと向かった。
そう。
谷本の居場所は、なんと病院だったのだ!
寺田凛奈が病院に駆け込むと、車を降りた途端、慌ただしく忙しそうに動き回る看護師と医師の群れが目に入った。次々と救急車が病院の玄関に到着していた。
白衣を着た人々が、救急車から降ろされてくる人々を必死に救命していた。
白い衣服は赤く染まり、人々の血が白いシーツを濡らし、目を覆いたくなるような光景だった。
病院の緊急性のない通路は全て閉鎖され、全ての医師がこの交通事故の対応に駆けつけていた。
寺田凛奈は玄関に立ち、目の前で忙しく動き回る同僚たちを見ながら、ある医師が近づいて来て尋ねるのを聞いた。「どうしたんだ?」
「ああ、大変なんです。観光バスが事故を起こして、乗客50人以上が全員怪我をしているんです!」
「そうか?どうしてこんな突然に...この患者は私が診ます。あなたは隣の患者を...」
医師たちは混乱しながらも秩序立てて患者たちの治療に当たり、他の患者たちも理解を示して脇に寄っていた。
本当の災害が起きた時、人類は命が何より大切だということを知っているのだ。
「ピピピ...」
機器のアラーム音が鳴った時、寺田凛奈は横を見た。誰も対応していない患者が突然ショック状態に陥っていた。