寺田凛奈は目を細め、老いぼれを注意深く見つめた。
病室は静寂に包まれていた。
リリは二人が話し始めた時から、部屋を出て、ドアの外で待機していた。
白い病室の中は、物音一つせず、空気中には静けさと刺激的な消毒液の匂いだけが漂っていた。
しかし、この匂いは老いぼれにも寺田凛奈にも非常に馴染みのあるものだった。
前者はここに長く住んでいたため、この匂いに慣れており、後者は幼い頃から、ほとんどこの匂いの中で育ってきた。
子供の頃は体が弱く、よく入院していた。家でも、彼女の部屋は消毒液で消毒されていた。
寺田凛奈はアーモンド形の瞳を少し伏せると、老いぼれがゆっくりと口を開くのを聞いた。「あの年、お前が生まれた後、お前の母親は神秘組織が追ってきていることに気付いた。お前を生かすために、神秘組織の前で死んだふりをして、彼らの追及を止めさせた。しかし、私たちは分かっていた。神秘組織は必ず調査を続けるだろうし、それに、臼井家の人間が信用できるかどうかも、誰にも分からなかった。」
老いぼれは彼女を見つめて言った。「だから、自分が十分に強くならなければ、他人の駒にされてしまう。お前の母親があの時、追い詰められたのも、結局は彼女が十分に強くなかったからだ。」
十分に強くなかった……
寺田凛奈は一瞬、呆然とした。
渡辺詩乃は既に京都全体を揺るがすほどの存在だった。彼女が開発した薬は、二十年以上経った今でも、時代遅れになっていない。
彼女は多才で、今日に至るまで、京都の伝説として語り継がれている。
そんな人物が、まだ十分に強くなかったというのか?
それに今に至るまで、寺田凛奈は実際、神秘組織がそれほど手強いとは感じていなかった。日本国内では、特殊部門に完全に押さえ込まれている。
入江桂奈がもう少しで逮捕されそうになり、最後は惨めな姿で国外逃亡したことを考えれば。
だとすれば、あの時、母の選択は間違っていたのだろうか?
父の寺田亮と手を組むことは、本当にそんなに恐ろしいことだったのか?それに、母はなぜ日本政府の保護を求めなかったのか?
これらは全て謎だった!
彼女が何か尋ねようとした時、老いぼれは既に続けて話し始めていた。「将来の出来事に対抗できるように、今日このような状況に直面した時に、十分な自信を持てるように、彼女は仕方なく……薬剤を注射したんだ。」