第692章 誕生日プレゼント

背の高いヨハンはその言葉を聞いて、少し戸惑った様子で丁寧に答えた。「寺田さん、私の妻の名前はジェシカです。」

ジェシカ?

寺田亮は少し戸惑い、眉をひそめた。「外国人ですか?」

ヨハンは答えた。「日本人です。」

日本人。

寺田亮の心臓が再び高鳴り、尋ねた。「では、日本名はありますか?」

「はい。」ヨハンは一瞬間を置いて「妻の日本名は富樫志子です。」

寺田亮はその見知らぬ名前を聞いて、失望して目を伏せた。手の中の二つの宝石を見つめ、突然指さして尋ねた。「この宝石は、彼女はどうやって手に入れたのですか?」

ヨハンは笑って答えた。「それは、妻が昔の知人からもらったものだと言っていました。今日はその知人の孫娘の誕生日なので、元の持ち主に返したのです。」

昔の知人からもらった……

その知人は、渡辺詩乃だろう。

寺田亮の心の中の失望の色はさらに濃くなった。

彼は首を振り、自分が取り憑かれているように感じた。

渡辺詩乃が二十年前に亡くなったことは分かっていたのに、彼女に関する些細な情報を見るたびに、まだ生きているのではないかと想像せずにはいられなかった。

彼は目を伏せ、もう一つの宝石を箱の中に入れた。

そして、ため息をついた。

体調が回復したばかりで長時間立っていられないため、寺田亮は階段を上がってVIP休憩室で休むことにした。

藤本凜人は義父が急に落ち込んだ理由が分からず、後を追った。「お義父さん、どうされましたか?」

寺田亮は手を振った。「何でもない。君は用事を済ませてきなさい。」

藤本凜人は彼の手を支えた。「上まで送らせてください。ついでに凛奈の様子も見てきます。」

寺田凛奈は賑やかなのが一番嫌いで、今日の主役も彼女ではないため、ずっと上階に隠れていて降りてこなかった。

寺田亮はうなずいた。

しかし、藤本凜人が寺田亮を支えて階段を上がると、本来VIPルームで横になっているはずの寺田凛奈が部屋にいないことに気付いた。

どこに行ったのだろう?

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下階は賑やかだった。

寺田芽とルーシー姫は久しぶりの再会で話したいことがたくさんあり、まるで一心同体のように止めどなく話し続けていた。