「……」
その場は突然静まり返った。
隣にいた人がまだ理解できていなかったので、親切に説明した。「寺田さん、藤本夫人が言ったのは、松野の真髄を真似できる人はいないということで、あなたのことではありません……」
言葉がそこで途切れ、やっと何かに気づいたように驚いて叫んだ。「あなた、あなたが松野なの?」
寺田凛奈は彼女を一瞥したが、何も言わなかった。
佐竹璃与は顎を上げ、誇らしげに周りの人々を見渡した。「そうよ、私の義理の娘が松野なの」
「どっ」と一気に、展示会場全体が沸き立った。人々は驚きの目で寺田凛奈を見つめた。「彼女は三原御医の直弟子で、外科医のAntiでもある。今、彼女が松野だと聞いても、全く驚かないわ……寺田さんのいじゅつは、本当に素晴らしいわ!」
「まあ、松野がずっと私たちの身近にいたなんて、海外にいるんじゃなかったの?」
「寺田さんは数ヶ月前に海外から帰ってきたって聞いたけど……」
「そうそう、そう言えば全部つじつまが合うわ」
「……」
人々の議論が飛び交う中、北島梨恵佳は唇を噛みしめた。まだ信じられない気持ちだったが、寺田凛奈のような人物が他人を詐称する必要はないことも分かっていた。
結局のところ、彼女は松野でなくても、京都の医学界では十分有名なのだから。
しかし彼女はまだこのまま負けを認めるわけにはいかないと思い、口を開いた。「寺田さん、あなたが松野なら、入室した時点でこの蘭の処方が間違っていることに気付いていたはずです。なぜその時に指摘して蘭を救わなかったのですか?わざわざ枯れかけるまで待って、自分のいじゅつを見せびらかすつもりだったんですか?この蘭をどれだけ苦しめたと思いますか?」
寺田凛奈:?
佐竹璃与は冷笑し、すぐに寺田凛奈の前に立ちはだかり、鋭い口調で言い返した。「北島梨恵佳、あなたの言い分は理不尽よ。さっき義理の娘が言ったでしょう?あなたの処方が間違っていると。あなたが認めないのなら、私たちに何ができるというの?それに、義理の娘は言ったわ、この花はまだ救えるって!」