佐竹璃与は寺田凛奈を見つめ、再び藤本凜人の方を向いた。
寺田凛奈は蘭の展示会に行くとだけ言い、それ以外のことは藤本凜人に何も明かさなかった。展示会に向かう途中でも、あの鬼蘭を救えるとだけ言って、自分が松野だということは話さなかった。
だから佐竹璃与は寺田凛奈がその鬼蘭を治せるかどうか、ずっと疑問に思っていた。
でも藤本凜人は彼女をそこまで信頼していた。
これが互いを信頼し合う感覚なのだろうか?
よく考えてみると、自分の人生で誰一人信頼できる人がいないというのは、かなり悲しいことだった。
本当に数えてみれば、おそらくあの人だけを信じていた……
そう思うと、佐竹璃与は目を伏せ、隣の温室を指さして言った。「中で話しましょう」
蘭が好きになりたいと思ったから、本当に蘭が好きになった。そして花を育てるとき、これらの花の世話をするとき、全ての雑念を捨てて、心を込めて作業に没頭できた。