寺田凛奈と藤本凜人は暗号を見つめ、黙って少し言葉を失った。
その暗号には数字の列と銀行名、そして貸金庫の番号だけが記されていた。
これは、母が貸金庫に何かを残したということを意味していた。
遺伝子薬剤V16なのだろうか?
寺田凛奈は眉をひそめて考え込んだ。
藤本凜人も口を開いた。「いつ取りに行く?」
寺田凛奈は彼と目を合わせ、もう一度その銀行名を見つめた。
母が物を置いた場所は京都銀行だが、もし彼らが戻って京都銀行に行けば、ずっと彼らを追跡している人たちに気付かれてしまうだろう。
しかし、自分で行かずに人を遣わせれば、母が何か罠を仕掛けていた場合、相手が気付かずに引っかかってしまう可能性もある。
だから今の最大の課題は、彼らを追跡し監視している人が何人いるのかを確認し、どうやって彼らから逃れるか……
あるいは、京都銀行に行くための適切な理由を見つけることだ。
寺田凛奈は黙ってため息をついた。
そして、手にした帳簿を横に投げ、しばらく考えてから口を開いた。「適当なタイミングを見計らおう」
「ああ」
この夜、二人とも心配事が重なっていた。
ベッドに横たわっても他の考えが浮かばず、寺田凛奈も珍しく不眠だった。暗闇の中で目を閉じて長い間考えた後、突然体を向けて言った。「柳田さんの腕前はどうだった?」
藤本凜人の呼吸は終始安定していたが、寺田凛奈には男が眠っていないことが分かった。案の定、彼女の言葉に藤本凜人の声がすぐに返ってきた。「まあまあだな。実は遺伝子薬剤は、想像ほど恐ろしいものじゃない」
「そう?」
寺田凛奈は少し疑わしく思った。
もし柳田さんの腕前が「まあまあ」程度なら、彼女が八人を倒したのに、藤本凜人がなぜ柳田さんを倒すのにあれほど時間がかかったのだろう?
しかし小坂門の武術は軽快さを重視し、策略で名を馳せている。あのような相手を倒すにはそれだけの時間が必要なのかもしれない。
寺田凛奈はそう考えて、黙って安堵のため息をついた。
柳田さんが強いと思っていたので、背後で指示を出している人はさらに強いはずだと思っていた。もし柳田さんが「まあまあ」程度なら、遺伝子薬剤の効果もそれほど大きくないのかもしれない。
彼女の悩みは全て自分で作り出したものに過ぎなかったのだ。