第775話 見知らぬ人!

営業フロアは真っ暗だった。

寺田凛奈は中に入ると、まず携帯を取り出した。画面には銀行の見取り図が映っていた。

母が20年以上前にここに預けたものだが、銀行は長年レイアウトを変更してきたものの、貸金庫の場所だけは変わっていなかった。

だから、物はまだそこにあるはずだ。

寺田凛奈は06番の貸金庫で、暗証番号は自分の誕生日だということをはっきりと覚えていた。

そこで、彼女は音を立てないように貸金庫のある方向へ向かった。

中には職員はおらず、警備員が巡回しているだけだったが、彼女を見つけるのは難しいはずだった。

寺田凛奈は黒い服を着ており、その姿は闇と一体化していた。

彼女は身のこなしが軽やかで、貸金庫のある場所へ直行したが、二つの部屋を通り過ぎたところで、突然後ろから足音が聞こえてきた。

寺田凛奈の瞳が縮み、すぐさま近くの隅に身を隠した。後ろを振り返ると、黒い影が一瞬過ぎ去るのを敏感に捉えた。

どうやら、今夜はここは安全ではないようだ。

彼女だけではないのだ!

この考えに、寺田凛奈は唇を噛んだ。最初の反応は、自分が追跡を避けられなかったこと、尾行されていたことだった!

彼女が気付かないうちに尾行できる人物といえば、石山博義のようなプロフェッショナルか、彼女より武術が上手い人間だけだ。

彼女より武術が上手い人間...柳田さんの上司か?

もしかして、この人物は遺伝子薬剤実験室で生き残った5人の子供の一人なのか?

それしか考えられない!

寺田凛奈は眉をきつく寄せた。

頭の中で素早く考えを巡らせた。今どうすべきか?

尾行されてここまで来てしまった以上、この人物はこの銀行に何かあることを知ってしまったはずだ。今すぐ引き返したところで、相手の疑いを晴らすのは難しい。

相手は06番の貸金庫を知らなくても、この銀行に目星をつけた以上、全ての貸金庫を調べれば手がかりを見つけられるだろう。

もう後には引けない。

今日、寺田凛奈は母が残したV16を手に入れなければならない。さもなければ相手に捕まってしまう可能性が高い!

そう考えると、寺田凛奈は深く息を吸い込んだ。

そして、突然足を止め、咄嗟に攻撃に転じた!

まずはこの黒衣の人物の実力を試してみよう。

「バン!」