営業フロアは真っ暗だった。
寺田凛奈は中に入ると、まず携帯を取り出した。画面には銀行の見取り図が映っていた。
母が20年以上前にここに預けたものだが、銀行は長年レイアウトを変更してきたものの、貸金庫の場所だけは変わっていなかった。
だから、物はまだそこにあるはずだ。
寺田凛奈は06番の貸金庫で、暗証番号は自分の誕生日だということをはっきりと覚えていた。
そこで、彼女は音を立てないように貸金庫のある方向へ向かった。
中には職員はおらず、警備員が巡回しているだけだったが、彼女を見つけるのは難しいはずだった。
寺田凛奈は黒い服を着ており、その姿は闇と一体化していた。
彼女は身のこなしが軽やかで、貸金庫のある場所へ直行したが、二つの部屋を通り過ぎたところで、突然後ろから足音が聞こえてきた。
寺田凛奈の瞳が縮み、すぐさま近くの隅に身を隠した。後ろを振り返ると、黒い影が一瞬過ぎ去るのを敏感に捉えた。
どうやら、今夜はここは安全ではないようだ。
彼女だけではないのだ!
この考えに、寺田凛奈は唇を噛んだ。最初の反応は、自分が追跡を避けられなかったこと、尾行されていたことだった!
彼女が気付かないうちに尾行できる人物といえば、石山博義のようなプロフェッショナルか、彼女より武術が上手い人間だけだ。
彼女より武術が上手い人間...柳田さんの上司か?
もしかして、この人物は遺伝子薬剤実験室で生き残った5人の子供の一人なのか?
それしか考えられない!
寺田凛奈は眉をきつく寄せた。
頭の中で素早く考えを巡らせた。今どうすべきか?
尾行されてここまで来てしまった以上、この人物はこの銀行に何かあることを知ってしまったはずだ。今すぐ引き返したところで、相手の疑いを晴らすのは難しい。
相手は06番の貸金庫を知らなくても、この銀行に目星をつけた以上、全ての貸金庫を調べれば手がかりを見つけられるだろう。
もう後には引けない。
今日、寺田凛奈は母が残したV16を手に入れなければならない。さもなければ相手に捕まってしまう可能性が高い!
そう考えると、寺田凛奈は深く息を吸い込んだ。
そして、突然足を止め、咄嗟に攻撃に転じた!
まずはこの黒衣の人物の実力を試してみよう。
「バン!」