第653話 誘拐された!

オーガスティンは最初、X国の正規軍がSatanのために来たと思っていたが、これほど長引いたのは、まさかあの寧夕のためだったとは!

目の前のこの男は、寧夕が自分の妻だと言うが、では、Satanはどうなのか。寧夕はSatanの女ではないのか……

今となっては、オーガスティンはそんなことを考える余裕もなく、寧夕に手を出したことなど認めるわけにはいかなかった。

そこで、オーガスティンは自分は寧夕を知らないし、目の前のこの男の妻を誘拐したこともないと、頑なに否定した。

「話さないか?」陸霆驍は立ち上がり、見下ろす視線には圧倒的な威圧感が漂っていた。「お前に口を開かせる方法はいくらでもある。試してみたいか?」

オーガスティンの額には冷や汗が滲み出ていた。彼は目の前の素性の分からない男を観察しながら、心の中で思案していた。この男が自分の仕業だと断言できるということは、きっと十分な証拠があるのだろう。どう言い逃れても意味がなく、ただ余計な苦しみを味わうだけだ。