実は皆早足で歩いていたが、方怡が来ると、皆は道を譲った。
特殊部門では、厳格な階級制度で管理されているからだ。
下級者は上級者に会えば、敬礼しなければならない。
P10である方怡は特警部で最高の地位を持ち、基本的に皆が彼女に道を譲る日々に慣れていた。
これが初めてだった。誰かが前に立ちはだかるなんて。
彼女の目に鋭い光が走ったが、その赤い髪を見て、少し戸惑った。
薛夕は方怡にぶつかったわけではなく、方怡のために道を譲ろうとした人にぶつかられたのだ。しかし彼女は立ち位置が安定していて、怪力の持ち主だったため、何ともなかったが、彼女にぶつかった人の方が二歩後ずさりした。
薛夕が振り向いた時、その人は即座に口を開いた。「あら、なんてすごい力なの?」
そう言った後、さらに続けた。「怡ねえさんが来たわ。ここに立ってて何してるの?道を譲りなさいよ!」
何気なく二言三言話した後、薛夕の赤い髪を見て、その人も呆然とした。
特殊部門では今、大きな噂が広まっていた。皆知っていることだが、その赤髪の女性には後ろ盾があり、ボスと関係があるということだ。二人の具体的な関係は明かされていないが、皆おおよその見当がついていた。
そして方怡がボスに好意を持っているという事実は、特殊部門で知らない者はいないだろう。この二人が対峙するなんて...
その人は黙って一歩後ずさりした。まるで嵐の前の静けさのようだった。
方怡は手ごわい相手だ。P10であり、しかも彼女の異能は最も希少で、かつ誰もが必要とするものだ。しかし目の前の、あどけない表情で美しく、少し抜けているように見える薛夕も...簡単な相手ではなさそうだ。
そうでなければ、道を譲れと言われた後でも、なぜ動かないのだろう?
まさに方怡と対立しているではないか?
皆が最も恐れているのは、神々の戦いに巻き込まれることだ。そのため、周りの人々はさらに一歩後ずさりした。
こうして、方怡と薛夕は正面から向き合うことになった。
白い服を着た方怡を見て、薛夕はただ少し呆然として、ゆっくりと口を開こうとした。「...あなた...」
その言葉がまだ終わらないうちに、方怡は笑った。「道を譲る必要はないわ。道は広いのだから、どこでも歩けるでしょう?」
彼女は直接横を通り、薛夕の傍らを通り過ぎた。
薛夕:「…………」