栗原郁子も警察署から電話を受けた。
事件の全過程を目撃した人物として、その日井上斉子の兄の来歴が並々ならぬものだと分かった時、警察に協力して供述と証言を行い、もう嘘をつく勇気はなかった。
彼女はもちろんこれらに協力することを喜んでいたので、喜んで承諾した。
井上斉子の証人になることで、井上市川に恩を売ることができる…
得意げに考えていたその時、突然携帯電話が再び鳴り出した。彼女は着信番号をちらりと見て、顔色が一気に曇った。なんと広石宗大だった!
電話を切りたい衝動に駆られたが、やはり怖くて切れなかった。最終的に不本意ながら電話に出た。「またどうかしたの?」
「姪っ子よ、助けてくれ。今回の金を返せないと、殺されちまうんだ!」広石宗大の声に栗原郁子は眉をひそめ、うんざりした。
彼女は拳を握りしめた。「いくら?」
「1億円だ。」
「いくらですって?!」栗原郁子の声が急に高くなり、自分が聞き間違えたに違いないと思った。
栗原家は確かに金持ちで、中学生の頃から毎月300万円のお小遣いをもらっていたが、栗原家の普通預金はもう数千万円しかなく、会社の運転資金を合わせても4億円に満たない。
前回の4000万円で広石宗大はしばらく持つと思っていたのに、まだ数日しか経っていないのに、広石宗大がまた1億円も要求してくるなんて!
しかし広石宗大は少しもひるむ様子はなかった。「姪っ子よ、お前が用意できるかどうかだ。用意できなきゃ奴らに殺されちまう。そうなったら栗原愛南のところに行くしかない!」
郁子の瞳孔が縮んだ。
「二日の猶予をやる。その間に金が俺の口座に入らなかったら、お前と栗原愛南の身の上を暴露するからな!命が最優先だからな、そうだろ、姪っ子?」
広石宗大はそう言い残すと、電話を切った。郁子は怒りに任せて携帯電話を床に叩きつけた!
彼女はその場で深呼吸をした。
1億円もの大金となると、家族に頼むしかない。
そう思うと、郁子はためらいを覚えた。
愛南は郁子が南條博士のメールを盗んだことを指摘しなかったが、栗原奥様は明らかに何かを察したようで、昨日から自分に良い顔をしていない。
郁子は眉をひそめ、栗原奥様の部屋に向かった。
近づくと、栗原奥様の問いかける声が聞こえてきた。「広石若菜はどうしたの?ここ数日見かけないわね。」