井上斉子の言葉に、井上の両親も真剣に見つめると、かすかに栗原愛南の魅力的な顔が見えたような気がした。
彼らも挨拶をしようとしたが、ベントレーの高級車は全く止まらず、そのまま通り過ぎてしまった。
井上のお父さんは驚いて言った。「本当に栗原お嬢様だったのかな?」
井上のお母さんも言った。「私も見たような気がする。」
井上市川は眉をひそめた。
森川北翔の車に乗っているのは間違いなく栗原愛南で、栗原郁子ではない。
彼は郁子に向かって言った。「あれがあなたの恩人なのか?」
「そうよ、恩人なの!」井上斉子は興奮して言った。「もう、早く追いかけて!恩人さんと一緒に宴会に行くの!」
井上市川は顎を引き締めた。
車の中の人は本当に栗原郁子なのだろうか?
家族全員が車に乗り込み、追いかけ始めたが、ベントレーの高級車はすでに姿を消していた。井上斉子は運転手に指示した。「もっと速く走ってください。宴会に入る前に恩人に会えるかもしれません!」
運転手はスピードを上げた。なんと本当に帝豪ホテルに入る前に、再びそのベントレーの高級車を見つけた。
しかし残念なことに、ベントレーの高級車は直接従業員専用駐車場に入ってしまい、彼らの車は外で止められてしまった。
井上市川は慰めるように言った。「宴会で会えるさ。」
井上斉子はとても落胆して、「そうするしかないわね。」と言った。
…
帝豪ホテルも森川グループに属しているため、森川北翔の車は直接従業員エリアに停められた。
栗原愛南は車を降りた後、森川北翔について歩いていたが、歩いているうちに突然おかしいことに気づいた。
これは宴会に行くんじゃなくて、なんだか…ホテルのスイートルームに行くみたい?
彼女は少し足を止めた。
森川北翔はそれを感じたようで、横を向いて見てきた。その目には疑問の色が浮かんでおり、彼女に何かあったのかと尋ねているようだった。
愛南は躊躇いながら尋ねた。「これは?」
「スイートルームに行くんだ。」森川北翔は淡々と答えた。
愛南の心臓が急に速くなった。「何をしに?」
森川北翔がまだ何も言わないうちに、二人に付いてきた紀田亮が思わず口を開いた。「もちろん、メイクアップと礼服に着替えるためですよ!病院ではさすがに不便だったので、スイートルームを用意したんです!」
愛南「…」