栗原愛南がこの宴会に来たのは、森川北翔と井上家の和解を図るためだった。
しかし先ほど、よく考えてみるとそれを実現できる可能性は低いことに気づいた。
森川北翔という人物は、表面上は冷たく紳士的に見えるが、実際はとても細やかで優しい。
二人で過ごす中で、病院でもさっきのドレス選びでも、彼は細部に気を配り、彼女をとても心地よく感じさせてくれた。
そんな人物なら、井上家と和解したいのであれば、さりげなく井上家の好感を得ようとするはずだ。
つまり、彼は井上家との和解を拒んでいるのではなく、実の母親との和解を拒んでいるのだ。
なぜ彼女をこのパーティーに騙して連れてきたのかはわからないが、もし森川北翔が譲歩しないのなら、江口亜英と井上家の橋渡しをして、少なくとも会社内での立場が不利にならないようにしたい。