井上斉子の言葉に、井上の両親は一瞬驚いた。「斉子、今は拗ねてる場合じゃないよ…」
しかし井上斉子は口を開いた。「彼女は私が死にそうな時に助けてくれた。今彼女が困っているのに、どうして離れられるの?海浜市のリハビリ施設も十分良いし、私はこの病院にいて、恩人さんが大丈夫になるまで待つわ」
井上の両親は顔を見合わせた。「でももし本当に栗原お嬢様が殺人を犯したとしたら?」
井上斉子は目に涙を浮かべた。「それでも待つわ。栗原お嬢様には親族も友達もいないから、毎週の面会日に会いに行くわ!そうしないと、みんな誰かに会えるのに、彼女だけ誰も来なかったら、寂しくてたまらないでしょう?」
井上のお父さんは苦笑した。「じゃあ、ここに住み続けるつもりか?」
井上斉子は俯いて黙り、また甘やかされたお嬢様のような様子になった。
井上市川はその様子を見て少し安心した。
夫と義母に裏切られて以来、井上斉子は自信をなくしていたが、今またお嬢様のような気まぐれを見せ始めたことは、良くなっている証拠だった。
彼はしばらく考えてから溜息をついた。「京都の会社にまだ用事があるから、先に戻るよ。お父さん、お母さん、斉子と一緒に海浜市でリハビリを続けてあげて。ここで休暇を過ごすつもりで」
井上のお父さんは仕方なく「わかったよ」と言った。
…
栗原郁子は栗原奥様や栗原のお父さんと一緒に帰らず、病院に残った。
森川おばあ様の病室に行くと、おばあ様が鼻歌を歌いながら老眼鏡をかけてドラマを見ているのが見えた。
ノックをしてから、彼女は部屋に入った。
森川おばあ様は彼女を見ると、すぐに顔を曇らせた。「なぜ来たの?」
郁子は笑顔で「おばあ様、一つお伝えしたいことがあって…」
森川おばあ様は手を振った。「あなたの話は聞きたくないわ。すぐに出て行きなさい」
二人のボディーガードがすぐに一歩前に出て、郁子を掴もうとした。
郁子はすぐに叫んだ。「おばあ様、愛南に何かあったんです!」
森川おばあ様は驚いて、頭を下げて老眼鏡の上から彼女を見た。「何だって?私の孫嫁にどうしたの?」
郁子は驚いた。「孫嫁って何ですか?」
「愛南のことよ!彼女にどうしたの?」