江口明の言葉に、その場にいた全員が驚いて、一様に彼を見つめた。
「どういう意味?南條博士が今日来るの?」
江口明は何となく優越感を感じていた。
まるで武道界の高手がすぐそばにいるのに、この連中には見えていないような感覚だった。
彼が何か言おうとしたその時……
栗原愛南が軽く彼を一瞥した。
何も言わなかったが、江口明はすぐに理解した。
南條博士が自分の情報をこれほど厳重に守っているのは、露見したくないという意味だ。
考えてみれば理解できる。
ここにいる多くの同級生は皆新エネルギー分野の人間だ。もし彼女が南條博士だと知ったら、栗原愛南は平穏な日々を送れなくなるだろう。
彼は咳払いをして、眉をひそめて言った。「南條博士のことなんて、君たちが詮索できるようなものじゃないよ。正直に言うと、僕も今日初めて南條博士本人にお会いしたんだ!」
男子学生の会話はよくこんな風に茶目っ気があるもので、彼の言葉に皆が笑い出した。
「そうだそうだ、俺たちには資格がないよな……」
「南條博士は今や業界最高峰の大物だよ。うちの会社もずっと彼と協力したいと思ってるんだけど、残念ながらあなたの会社の竹歳社長は頑として動かないんだ。うちの社長が何度贈り物を送っても無駄だった」
「君たちの竹歳社長はかなり抜け目ないよな……」
話題が逸れ、みんな自分の上司や職場生活の愚痴を言い始めた。ある人が言った。「うちの会社のインターンはまるで人権がないよ!毎日先輩社員のコーヒーを買ったり、コピーを取ったり、雑用ばかりさせられて、ひどいもんだ!」
「うちもそうだよ。でも俺は甘んじてないぜ。俺は堂々たる海浜大学卒業の大学生なんだ。なんで雑用なんかやらなきゃいけないんだ?二倍の給料をもらってるわけじゃないんだぞ!」
「ハハハ、大学生による職場改革が始まったな!」
「……」
みんなが楽しそうに話している間に、また何人かが入ってきた。
全員旧友で、次々と会話に加わった。
栗原愛南は控えめな性格で、あまり話さないため、すぐに無視されるようになったが、彼女はそれでも構わないと思った。
しばらくして、同級生たちがほぼ全員揃いかけたころ、森川辰と栗原郁子というトリを飾るような人物がようやく到着した。
二人が入り口に姿を現した瞬間、同級生たちは一斉に立ち上がった。
「森川が来た!」