第361章

その時、南條家の別荘にて。

栗原愛南は板挟みになっていた。

「ママ、絵本を読んで!」雪音が呼んでいた。

「恩人、私、少しめまいがするの。私と一緒にいてくれない?」井上斉子も彼女を呼んでいた。

森川北翔は彼女を呼びはしなかったが、ただ物憂げな眼差しで彼女を見つめていた。

栗原愛南は尋ねた。「どうしたの?」

森川北翔は俯いて言った。「昨日の結婚式で、紀田家の彼女を見かけたんだ。」

その「彼女」とは、間違いなく森川北翔の母親である紀田真里江のことだった。

紀田杏結の結婚式だから、彼女が来るのは当然だった……

栗原愛南は急に心が痛んだ。「昨日どうして言ってくれなかったの?」

「大丈夫だよ、愛南。僕のことは気にしないで、彼らの相手をしてあげて。僕は一人でタバコを吸わせてもらうよ。」