第599話

「何?」

川内美玲は少し驚いて、栗原愛南を見つめ、今の言葉が聞き取れなかったような気がした。

栗原愛南は彼女の様子を見て、唇を少し曲げ、自分の身分について説明しようとしたが...まだ口を開く前に、誰かに行く手を阻まれた。

一人の男性が特務機関の職員二人を連れて立っており、川内美玲を厳しい表情で見つめ、冷たく言った。「川内先生、我々の部署の資料室には部外者を入れることはできないはずですが、規則をご存じないのですか?」

川内美玲は眉をひそめた。

その男はすぐに栗原愛南に目を向け、数回視線を走らせた後、再び川内美玲を見た。「それとも、お爺さんが特務機関を管理しているからといって、ここで特別な権限を行使できると思っているのですか?川内先生、部外者を資料室に連れて来る際、正規の手続きを踏みましたか?もし踏んでいないのなら、この件を報告せざるを得ません!」

栗原愛南は眉を上げた。

先ほどの尋問も、今の資料室への立ち入りも、確かに規則に反している。

正確に言えば、川内美玲は確かに私情を挟んでいた。

この特務機関は川内美玲のお爺さんが管理しているとはいえ、手続きを無視することはできない。特に彼らのような正規職員は、このような過ちを犯してはいけない。

もし南條家が異常に神秘的でなければ、特別な手段を使わずとも南條真美から手がかりを得ることができたはずだが、彼女は川内美玲にこのような面倒を掛けたくなかった。

しかし、幸いにも先ほど山田家の名簿を見たので、自分も今は正規職員となっている。どうしても必要なら正体を明かすこともできる。

栗原愛南がそう考えていると、川内美玲が彼女の前に立ちはだかった。「まず、栗原お嬢様はこの事件の被害者です。南條真美が八木珊夏の黒幕かどうかを知る権利があります。次に、私が栗原お嬢様を資料室に案内したのは、お爺さんの許可を得てのことです!」

その男はすぐに追及するように尋ねた。「許可?書面での許可証はどこにありますか?持っているんですか?」

そんなものがあるはずがない。

栗原家に入り、川内美玲が栗原愛南に会った瞬間から今まで、すべての行動は即興的なものだった。先ほど南條真美を尋問している間、川内美玲は資料室で南條家の情報を探していた。その間に川内お爺様の許可を得る時間なんてなかったはずだ!