第578話

橋本南は一晩中眠れなかった。

外は風が強く、窓を打つたびに、彼女は驚いて目を覚ました。

彼女は怖かった。不安で、恐ろしかった。

栗原叔父さんが目の前で倒れたのだ。彼女は今まで人の生死にこれほど近づいたことがなかった。

もし栗原叔父さんが解毒できずに死んでしまったら...彼女は殺人犯の容疑を晴らすことができるのだろうか?

栗原家が彼女を監禁するのは当然だ。自分の立場に置き換えても、不思議なことばかりだった。

どうして栗原家の三男が昨日コーヒーをこぼしたのか?

どうして彼女がコーヒーの残りを処分してしまったのか?

もし処分していなければ、コーヒーの残りから毒薬の残留を調べることができたはずだ。毒薬の配合まで分析できたかもしれない。

だから、彼女が容疑者でなければ、誰が犯人なのか?

橋本南は泣きそうになった。

夜が明けてようやく、うとうとと眠りについた。

しかし、まだ夢の中に入ったばかりのところで、部屋のドアが突然蹴り開けられた。

橋本南は急いで顔を上げると、八木珊夏が家政婦を連れて入ってくるのが見えた。

橋本南はすぐに立ち上がった。「何をするつもり?」

「何をするって?」

八木珊夏は嘲笑うように笑い、振り返ってドアを閉めた。「もちろん、犯人のお前を尋問するのよ!」

橋本南はすぐに叫んだ。「違います、私じゃありません、私は...」

「叫びなさい!栗原家のこの別荘の構造は、誰よりもあなたがよく知っているでしょう。喉が潰れるほど叫んでも、誰にも聞こえないわ。橋本南、今日は誰も助けに来ないわよ!」

そう言うと、彼女は家政婦の方を見て、ポケットからロープを取り出した。「彼女を縛りなさい!」

家政婦がすぐに前に出ると、橋本南は近くのテーブルから花瓶を手に取った。「近寄らないで!」

家政婦は立ち止まった。

八木珊夏は嘲笑うように笑い、突然一歩前に出て、片手で花瓶を掴み、もう片手で彼女の手首を叩いた。橋本南の手は直ちに力が抜け、その場に崩れ落ちた。

彼女は驚いて八木珊夏を見つめた。「あなた...」

八木珊夏は手を払い、栗原光雄の前での弱々しい態度とは打って変わって、直接言った。「早く縛りなさい!」

家政婦はすぐに駆け寄り、橋本南の手足を縛った。