第788章

「雪音の実の父親って、あのクズ男の張本朔じゃないの？」

「お姉さんの愛南が張本朔と結婚して、産んだ子供よ……」

彼女はぼんやりと口を開いた：「今行きます」

電話を切ると、森川北翔は様子がおかしいことに気付いた：「どうしたの？」

栗原愛南：「雪音の実の父親が訪ねてきたみたい。誰なのかわからないけど……見に行ってくる……」

「一緒に行くよ」

栗原愛南が頷くと、二人が外に向かおうとした時、斎藤愛南が突然ドアの外に現れ、手にはチキンの足と種を持っていた：「私も一緒に行く！」

そう言って二人の後ろについて行き、車に乗り込むと、斎藤愛南は好奇心旺盛に森川北翔を見た：「森川さん、仕事しなくていいんですか？森川グループのような大企業なのに、忙しくないんですか？」

森川北翔は前方をじっと見つめたまま、淡々と車を運転しながら：「どうかしましたか？斎藤お嬢様」

「別に何もないです。ただ不思議に思っただけです。知らない人が見たら、森川グループが破産でもしたのかと思うでしょうね。毎日くっついて回って」

斎藤愛南は口を尖らせ、助手席に座る栗原愛南に向かって言った：「愛南お姉さん、言っておくけど、男性を選ぶなら仕事に熱心な人を選ばないとダメよ。そうじゃないと、将来どうやってあなたを養うの？まさかあなたが養うつもり？」

栗原愛南は警告するように：「黙りなさい」

「はい」

斎藤愛南は大人しく後部座席に座り、食べ物を食べ始め、小さな口でパリパリと種を割っていた。

栗原愛南はバックミラー越しに彼女を見た。

この斎藤愛南は、天下無敵のような性格なのに、自分の言うことだけは不思議と聞く。まるで血のつながりによる支配力があるかのように。

栗原愛南は森川北翔を見つめた。

彼女は森川北翔が常に自分について回る理由を理解していた。海浜市での出来事で、彼女が危険な目に遭った時からだった。

特に今は危険が四方を取り囲んでいることを知っているので、彼は彼女から離れられないのだ。

二人はすぐに栗原家に到着した。

車を止めると、栗原井池と紀田杏結が玄関に立っているのが見え、複雑な表情で彼らを見つめていた。

栗原井池と紀田杏結は栗原愛南の身分を薄々察していたが、今の栗原愛南は愛南であり、部屋の中にいる人が雪音の父親だとすれば……つまり愛南の男性ということになる。