人侵さずんば、われ侵さず

「天野さんも冬島翼さんが私にイベント出演を頼んだことを知っているのね?」天野奈々は驚いて中村さんの方を振り向いた。中村さんが墨野に話したのかと思ったが、中村さんは慌てて手を振って、自分は関係ないと示した。

「この業界では、私が知りたいと思えば、何でも知ることができるんだ」

この瞬間、天野奈々はもはや墨野宙がなぜ芸能界のトップに立てたのかを不思議に思わなくなった。そこで、彼女は墨野に向かって微笑んだ。「安心して。敵を倒す刀を私に渡してくれたんだから、きっとこの件をうまく解決するわ」

墨野は何も言わず、ただ手を伸ばして天野奈々の髪を撫でた。

中村はそれを見て…鳥肌が立つほど甘酸っぱくなった。この二人は、結婚したばかりなのに、どうして10年も結婚生活を送っているような老夫婦に見えるのだろう?

広告撮影が終わった後、三人は一緒に東京に戻った。しかし、飛行機の中では天野奈々と墨野はまだ寄り添って休んでいたが、飛行機を降りると他人のように別々に歩き始めた。さらに、冬島翼は新しいマネージャーの小林真弓を迎えに寄越した。

空港の出口で、小林真弓というマネージャーは薄紫色のシフォンのミニドレスを着て、10インチのハイヒールを履き、サングラスをかけていた。腕を組んで時計を見ながら、全身から苛立ちを漂わせていた。まるで彼女こそが迎えられるべき国際スーパースターのようだった。

天野奈々は小林真弓の足元に置かれた自分の名前が書かれたボードを見たが、小林真弓を全く無視して、中村と一緒に空港を出た。

中村は密かに笑った。天野奈々は本当に自分の気性を持つようになってきたな。しかし、車が半分ほど進んだところで、天野奈々は小林真弓からの電話を受けた。「天野さん、どこにいるの?飛行機は12時に着陸するって言ってたじゃない?」

「もう会社に向かう途中よ」天野奈々は平静に答えた。

「空港を出る時、私を見なかったの?」

「見たわよ」天野奈々は相変わらず平静で、感情の起伏は全くなかった。

「じゃあ、なぜ私を探さなかったの?」小林真弓は本当に怒り狂った。