第316章 何を諦めてもいい!

山本修治と深水藍華がヒルトンホテルに戻ってきたとき、天野奈々は二人が手を握り締めているのを見て、からかわずにはいられなかった。「会ったばかりなのに離れられないの?」

深水藍華は少しも恥ずかしがらず、むしろ山本修治の腕をさらにきつく抱きしめた。「いつも奈々さんと墨野社長にやられっぱなしだったから、今度は私たちがやり返す番よ」

「参ったわ。もう休んでちょうだい。午前4時よ。明日の朝早くから仕事があるんだから」

「明日は私のマネージャーを貸してあげるわ。山本修治は私が貰うわ」

「連れてきたのは、あなたに"楽しんで"もらうためでしょ?」天野奈々は軽く笑い、その口調にも少し艶っぽさが感じられた。

深水藍華は山本修治が人に品定めされるのに慣れていない様子を見て、笑いながら言った。「じゃあ、私たち部屋に戻るわ。あなたも早く休んでね」

「うん」天野奈々は軽く頷いた。

村上隼人は天野奈々の隣の部屋にいて、天野奈々の側には墨野宙も山本修治もいないし、スタッフさえ一人もいないから、きっと我慢できずに出かけて遊び男を探すだろうと思っていた。

しかし、山本修治と深水藍華が去った後、天野奈々はまず身支度を整え、ベッドに横たわってから墨野宙に電話をかけた。東京ではまだ10時頃だったので、きっと仕事中だろう。

「宙…」

墨野宙は電話を受けると、反射的に時計を見て、眉をひそめた。「ミラノはもう4時だぞ。まだ寝てないのか?」

「あなたのことを考えていたの」天野奈々の声には、かすかな甘えが混じっていた。「さっきあおいちゃんと山本修治にやられちゃったわ」

「じゃあ、山本修治に電話して戻ってこいと言おうか?」

「そしたら、あおいちゃんに殺されちゃうわ」天野奈々は軽く笑い、墨野宙への愛着を隠そうともしなかった。「私がいない間、遅くまで仕事しないでね」

「今日はどうした?子供みたいだな」

「そんなことないわ。ただ、すごくあなたに会いたくて」

「じゃあ、電話切らないで、そのまま横に置いておいて…」墨野宙は優しく言った。

天野奈々は軽く頷き、うとうとしながら携帯電話を枕元に置いて、ゆっくりと目を閉じた…