第317章 体は単なる器

「何も諦める必要はないわ」天野奈々の目が突然赤くなった。

　　深水藍華は相変わらずの深水藍華だった。愛のためなら、彼女はまだ何でも惜しみなく与えることができ、何でも捨てられるのだ。

　　「でも、本当に彼が指をさされたくないの……彼が受けた中傷と傷はもう十分すぎるくらいよ」

　　山本修治は電話を切ると、ドアの前に立ち、深水藍華の低い叫びと泣き声を聞いていた。

　　実は、深水藍華は本当に泣き虫な女性ではなかった。10年の苦難を強く乗り越えてきたのに、彼のために……彼の名誉のために、こんなにも崩れ落ちてしまうなんて……

　　手の中の携帯電話を握りしめ、山本修治は部屋に戻り、深水藍華の前に立った。

　　天野奈々は山本修治が話したいことがあると分かり、自ら立ち上がってゲストルームに入り、ドアを閉めた。

　　山本修治は手を伸ばして深水藍華を抱きしめ、彼女を自分の胸に埋もれさせた。しばらくしてから、低い声で諭すように言った。「僕を甘く見ないでくれ、うん？僕は海輝の広報部長を5年間やってきたんだ。こんなことくらい対処できないと思うのか？」

　　深水藍華は顔を上げ、涙で曇った目で山本修治を見つめた……

　　山本修治の心は針で刺されたようだった。身を屈めて彼女の顔を両手で包み、軽くキスをした。「僕を信じて、僕たちは何も問題ないよ」

　　「本当？」

　　「僕を信じられないなら、墨野社長を信じるべきだろう？」山本修治は深水藍華の肩をさすりながら、慰めるように笑った。「ただ、海輝の広報部長はもうやらないよ」

　　「じゃあ……」

　　「昇進したんだ」山本修治は手の中の携帯電話を軽く振りながら言った。「墨野社長が僕に裏方に回って、広報スタッフの育成と企画をするよう言ったんだ。海輝の副社長になるよ」

　　深水藍華は泣きながら笑い、まつげにはまだ光る涙が宿っていたが、顔には思わず笑みがこぼれた。「本当なの？本当？」

　　「嘘をついて何になる？」山本修治は少し辛そうに深水藍華の頭をなでた。「もう泣かないで、僕が辛くなるよ」

　　「じゃあ、これからどうするの？」