第409章 彼女に出来ないことなどない!

実際、天野奈々自身も『バカ弟子』の完全版を見たことがなく、試写会の時は『奇夫』の撮影中で、今の先行上映でも、彼女の心は外部の反応に合わせて揺れていた。

『バカ弟子』は、まるで隙間で生きているかのように見えたからだ。

「あなたの撮影スケジュールからすると、年間3本の映画で手一杯になるわね。だから下半期にもう1本の映画を決めておいて、その後は安心して妊活に専念できるようにしましょう」

夜、夫婦二人は書斎で脚本を選んでいた。墨野宙は資料に目を通すと、それを脇に置いた。

「あなたの言う通りにします...」天野奈々は墨野宙の背中に寄りかかって答えた。「あなたが計画した生活が好きだから」

天野奈々のその言葉を聞いて、墨野宙は密かに口角を上げ、心が大きな満足感で満たされた。

「今年の日本アカデミー賞新人賞を取ってもらうからね」

「そんなに私を信じてくれてるの?」天野奈々も脚本を置くと、くるりと向きを変えて墨野宙の背中にもたれかかった。「実は『バカ弟子』の状況がどうなっているのか知りたくて」

「墨野夫人、旦那の能力を疑っているのかな?」墨野宙は振り返り、天野奈々を横目で見ながら眉を上げた。

「もちろんそんなことはないわ。ただ、私の得意分野じゃないから、つい不安になってしまって」

「心配しないで」墨野宙は天野奈々を抱き寄せ、自分の膝の上に座らせた。「まだ見てないでしょう?次の先行上映で一緒に見に行きましょう」

「良い出来?」

「業界で最も信頼される映画評論家たちがあなたを擁護し始めているよ。どう思う?」墨野宙は軽く眉を上げた。「こんなに自信がないなんて珍しいね」

「これは私にはコントロールできないものだから...」

「コントロールの仕方を教えてあげよう」墨野宙は天野奈々を隣に座らせ、こう言った。「映画市場も、そんなに難しくないんだ。芸能界のことは、結局みんな共通しているんだよ。ただ相手の勢いに圧倒されているだけだ」

「他人を見るのではなく、自分を見なさい」

「脚本家から俳優、監督、そしてスタッフまで、私たちには3回の先行上映をする自信がある。これは私たちの映画への自信の表れだ。そして海輝の運営は業界でも最強だ。私たちは競合と比べる必要はない。自分の強みを知り、それを環境に活かすことが大切なんだ」