第419章 わざと遅刻させようとしているんじゃないの?

『バカ弟子』と『奇夫』の出演により、天野奈々の女優としての地位は、徐々に大衆の心に根付いていった。そして、モデル時代と同様に、天野奈々の一歩一歩は着実で、人々の信頼を得ていた。

これにより、世間の天野奈々への信頼度は更に高まり、森口響や北川東吾と同じ演技派の仲間入りを果たした。まだ彼らには及ばないものの、少なくとも彼女は女優としての道を真摯に歩んでおり、認められた後にバラエティー番組で話題性を消費するような芸能人とは一線を画していた。

『消えた家族』のオーディション日時が正式に通知されたが、ヒロイン役を狙っているのは栗原暁と天野奈々だけでなく、他の事務所のタレントや、韓国の映画女王クラスの女優まで参加するという。

今回の監督は、国際的な賞を三度受賞している伊藤保だ。女優たちが必死になっているのは、彼の作品で演じることで、受賞の可能性が非常に高くなるからだ。

アカデミー賞を欲しがらない俳優がいるだろうか?

これも墨野宙が天野奈々にこの映画への出演を許可したもう一つの重要な理由だった。妻の全ての努力が相応の報いを得ることを願っていたのだ。

そして天野奈々は……

最高のものに値する存在なのだ。

……

その時、正午の12時、某五つ星ホテルにて。

青い唐装を着た老人が扇子を揺らしながら、二人のボディーガードを従え、監督伊藤保の部屋に入った。二人が対面すると、伊藤は即座に老人に向かって熱心に手を差し伸べた。「墨野様、お久しぶりです。相変わらずお元気そうで」

墨野様は低く笑い、相手の感嘆の言葉に応えながらソファに座った。「あなたのような大監督の華々しさには及びませんよ……」

「墨野様、あなたは大先輩の芸術家です。私なんかとは比べものになりません」

「今日は実は二つお願いがあってね、伊藤監督、聞いていただけますかな?」墨野様は扇子を揺らしながらゆったりと言った。

「墨野様、あなたは大先輩で、芸能界の重鎮です。何なりとおっしゃってください」伊藤はヒゲをなでながら笑った。

「一つ目は、あなたの映画でカメオ出演させてほしい。ギャラは要りません。ただし、私の出演は秘密にしてほしい。誰にも知られてはいけない」墨野様は目を細めた。

相手は驚いた様子で……

「あなたにカメオ出演していただけるなんて、私の生涯最高の栄誉です。ただ、お体の具合が……」