午前10時、墨野宙はスイスの代表団を海輝の近くのホテルに案内した。代表団は男性3人、女性2人で、今回の行程に対してかなり不満そうな態度を見せていた。
「天野家との提携案は既に避けられたはずだ。今や天野家の責任者は行方不明で、提携など進められるはずがない。我々との提携を望むブランドはいくらでもあるのに、なぜボスは我々を東京に来させたんだ?」代表の一人がソファに座りながら理解に苦しんでいた。
「お前だけじゃないさ。この鬼のような場所に来て、空気まで汚染されている。」
「我慢しよう。相手と一度会って帰るだけだ。」
一同身支度を整え、ホテルのスタッフの案内で宴会場へ向かった。しかし、到着してみると、広々とした食卓には海輝の責任者も天野奈々の姿もなかった。
「どういうことだ?天野家の代表はなぜ来ていない?」
「主催者が客より遅れて来るなんて前代未聞だ。これが東洋のマナーなのか?」
東京出張で既にイライラしていた上に、天野家の人間が全く現れないことで、スイスの代表団は皆不機嫌な表情を浮かべていた。
しかし5分後、宴会場のドアが開き、黒いコートを着た天野奈々が柔らかいフラットシューズで入場し、流暢なイタリア語で挨拶した。「お会いできて光栄です。」
5人の中で、一人の女性だけが立ち上がって天野奈々と握手を交わし、他の者たちは体を斜めにもたせかけ、天野奈々を横目で見ながら言った。「天野家のこのような態度では、我々は絶対に提携を考え直すことはできない。」
「提携の話は後にしましょう。まずは皆様にお食事を召し上がっていただきたいと思います。」天野奈々は相変わらず微笑みながら、スタッフに料理を運ぶよう指示した。
一同の表情は天野奈々の言葉では変わらなかったが、スタッフが料理を一品ずつ運んでくると、彼らの目に驚きの色が浮かんだ。
「あなた...私がラザニアが好きだということをどうして知っているの?」
「これは私の大好きなコーヒークッキー...」
「これは...」
一同は天野奈々が彼らの好みをこれほど詳しく知っていることに驚いた。これらのことは、他人に話したことすらなかったのだ。
これを見て、スイスの代表はようやく興味深そうな笑みを浮かべ、両手を組んで天野奈々に尋ねた。「私たちの好みをどうやって知ったのか、聞いてもいいですか?」