日本アカデミー賞は権威のある正規の賞であり、内部の論争を表に出すことなど決してありえないと、天野奈々はいわゆる業界関係者からのリークなど信じていなかった。
歴代の日本アカデミー賞は激しい競争を経て決まってきたが、主催者側は毎回、選考の激しさを収めてきた。しかし、なぜ彼女の時だけ、大衆の前で判断されることになったのか?このままでは、受賞しても、しなくても、批判の的になるだろう。
受賞できなければ、あれだけ大騒ぎしたのに結局何も得られなかったと、笑い者にされる。
受賞すれば、バックにいる大物の力を借りただけだと言われ、賞の価値も認められない。
しかし、このようなジレンマは、本当に偶然なのだろうか?
光が強ければ強いほど、その影も濃くなる。この道理を、天野奈々は十分理解していた。
相手が誰であれ、どんな目的があれ、仕掛けてくる者がいれば、彼女は恐れずに反撃する。
……
深夜、ハイアットレジデンス。
二階の書斎の灯りがまだ静かに灯っており、墨野宙はパソコンの前に座ってキーボードを叩いていた。天野奈々はお腹を抱えながら、ドアの隙間から夫の姿を見つめていた。考えるまでもなく、きっと彼女のことで忙しいのだろう。
しかし、彼女はドアを開けることはしなかった。トップモデルの地位を捨てて女優になることを決意した時から、墨野宙は彼女に対して負い目を感じていることを、彼女は知っていたからだ。
今回の件も、明らかに誰かが意図的に海輝を、そして彼を挑発しているのだ!
「外は寒いから、部屋に戻って寝なさい」墨野宙は顔を上げることなく、しかし天野奈々がドアの外にいることを知っていた。天野奈々は少し驚いて、軽く微笑んだ。
「最近眠くて仕方がないの。もう随分と、かっこいい夫の姿を見ていないわ」
墨野宙は顔を上げ、深く息を吸い込んでから、天野奈々に手招きをした。「こっちにおいで……」
天野奈々はドアを開けて墨野宙の側に行き、自然と彼の腕の中に収まった。「あなた……」
「ん?」
「安心して。今回は、あなたの広報対応に口を出さないわ。私も日本アカデミー賞をとても重視しているから。受賞できてもできなくても気にしないなんて言えないわ。そこまで大人になれていないの」