第555章 諦めない様子

「感情はそんな計算で測れるものじゃない」天野剛は振り向かずに、柴崎知子のこの返事に対して、異常なほど冷たく答えた。「それに、知子、私はずっと信じているんだ。かつて他人のことばかり考えていた人が、本当に悪い人間になるはずがない。もうこんな是非に私を巻き込まないでくれ。あなたのことも、あなたがもたらした情報も、私には興味がない」

柴崎知子は自分がどうしてしまったのか分からなかった。天野奈々の前で、他の人の前での自分を思い返すと、それはすべて偽りの姿で、今この嫉妬で発狂しそうな自分こそが、本当の自分なのかもしれなかった。

「ほし、私は本当にあなたを必要としているの」柴崎知子は立ち上がり、二人の背後で切迫した声で言った。「本当に必要なの」

この言葉を聞いて、今度は天野剛が振り向いた。しかし、この瞬間、彼の頭の中は傷だらけの近藤青子のことでいっぱいだった。柴崎知子の必要性は、ただ自分の未練を満たすためだけのものに過ぎなかった。

「すまない。私には、君よりももっと私を必要としている人がいる」天野剛は近藤青子の手を握り上げ、真剣な眼差しで彼女を見つめた。

そう言って、天野剛は近藤青子の手を引いて、完全に柴崎知子の視界から消えていった。一片の未練も残さずに。

柴崎知子は魂の抜けたようにソファーに座り込み、両手が震えを抑えられなかった。かつての優柔不断さが、天野剛の自分に対する重要性に気付かせなかった。しかし、本当に気付いた時には、すべてが遅すぎたようだった。

遅すぎたのか？

……

実は、柴崎知子は知らなかったが、彼女のこの「必要」という言葉こそが、天野剛に自分の心をより一層はっきりと見せることになった。

自分が望むもの、大切にしたいもの、守るべきものが、誰なのかを。

「きっと心の中では得意になってるんでしょう？柴崎知子があなたに助けを求めに来たって」ホテルを出た後、近藤青子は天野剛の手のひらから右手を抜き、少し気まずそうな様子を見せた。

「私にとって、彼女はもう関係のない人になってしまったんだ」

「柴崎知子は、諦めそうにない様子でしたけど」

「申し訳ないけど、私には他の取り柄はないかもしれないが、特別に頑固なところがある。一度決めたことは、絶対に後戻りしない」天野剛は真剣に近藤青子に向かって言った。「行こう、家まで送るよ」