第882話 ただの演技派

朝食の後、番組の収録時間となり、加藤静流は少し暇になって、携帯を取り出して見ると、木下准からのメッセージが届いていた。

「どこにいる?」

加藤静流は少し考えてから、木下准に自分の居場所を教えた。彼が来るとは思っていなかったからだ。

その後、木下准からの返信はなく、加藤静流も連絡を取ろうとはしなかった。様々な理由で、二人の関係は淡々としており、進展する様子はなかった。

二人とも忙しく、特に木下准は特殊な職業のため、加藤静流の傍にいることは難しかった。そのため、加藤静流も大きな期待はしていなかった。

「夏目栞、何やってるの?ゲームもできないの?こんなんじゃ、ゲストの収録どうするの?」

加藤静流が考え事をしている時、収録が中断された。夏目栞がゲームをしている時に誤ってゲストを転ばせてしまったのだ。

雨のため、室内での撮影に変更されたが、スペースが非常に限られていた。

もちろん、これはタレントの言い分だが、加藤静流はそうは思わなかった。冤罪を受けた表情は一目で分かったからだ。

とにかく、この日、夏目栞はタレントたちの嫌がらせと難癖の中で過ごすことになった。

レギュラーゲストという立場のため、タレントに怒ることもできず、ずっと我慢を強いられていた。

誰もが気付いていたが、まるで何かの合意があったかのように、誰も暴露せず、順番に夏目栞をいじめ、彼女を共演者として扱わなかった。

田村青流はすべてを見ていた。彼にとって、良いMCになるためには、忍耐は必須だった。

優秀なMCは、問題に直面した時、まず感情をコントロールしてから、問題に対処しなければならない。

そうでなければ、対立を深めるだけで、事態は悪化するばかりだ。

この日が終わった後、加藤静流は夏目栞を見て思わず首を振った。「このままいじめられ続けるつもり?」

「もちろん違うわ」夏目栞は首を振って、「彼らの弱点を見つけて、大人しくさせてやるわ」

「おや、やっと奈々みたいになってきたじゃない」加藤静流は笑って言った。「でも、今は大雨だから、ここが湿気てるのも当然ね。今夜は蚊に刺されるの覚悟しておいてね」

「私と一緒にいて、蚊を心配する必要なんてないわよ」夏目栞は首を振り、何か秘密めいた準備をし始めた。確かに、加藤静流はその夜、とても安心して眠ることができた。