加藤静流は高熱が下がらず、夏目栞はついに焦りを感じ始めた。前にも進めず、後ろにも戻れない。仕方なく、彼女は静流に告げた。「ここで少し休んでいて。私が火を起こして助けを求めに行くわ」
「あの人たち、本当に命惜しみね」静流は苦笑いしながら言った。「栞、早く行って。このままじゃ、私たち二人とも行けなくなるわ」
「何を馬鹿なことを言ってるの?熱で頭がおかしくなったの?」夏目栞は彼女を安全な場所に置き、水たまりのない場所を見つけて、原始的な方法で火を起こそうとした。
静流は栞を見つめながら、突然すべてが報われたように感じた。たとえ何もなくても、友達がいる。
栞が火を起こそうとしている時、突然茂みから大柄な人影が現れ、栞は驚いて警戒したが、その人物は直接静流の前にしゃがみ込み、バッグから注射針を取り出して、抗炎症薬を注射した。
静流は衰弱していたが、来訪者の顔をはっきりと見分けることができた。「木下准……」
「ああ」木下准は冷たく答えた。
「どうしてここに?」
「探しに来た」木下准は二言だけ答え、そして静流を背負おうとした。
夏目栞は急いで手伝いに行った。まさか誰かが命がけで静流を探しに来るとは思わなかったからだ。
この男は一瞬にして非常に頼もしく見えた。もともと十分強そうだったのに。
「どうなってるんだ?他の人たちは?」
夏目栞は他の人々が静流からの感染を恐れた件について木下准に話し、二人は前に進みながら現状について話し合った。
「つまり、あいつらは静流を見捨てたのか?」木下准の声は非常に冷たかった。
夏目栞は説明しなかった。それが事実だったから。
この時、静流は既に木下准の背中で眠りに落ちていたが、夏目栞が驚いたのは、木下准が大人一人を背負っているにもかかわらず、まったく苦しそうな様子もなく、むしろ彼女よりも軽やかに歩いていることだった。
「この山を越えれば、下に村がある」
「どうしてそれを?」
木下准は、この場所を戦闘機で何度も飛び越えたことを言えず、黙ったままだった。
夏目栞は木下准の様子を見て、身分について多くを語れない立場だと察し、それ以上質問しなかった。